何かに取りつかれたの如く、制作されたスピーカー達。 3連続最後の作品。
なぜ自作するのか?それは、市販品にはない自分だけのオリジナルを創作したいから。特に”フルレンジ ”の場合、シンプルな構成で知識もあまり必要としない事と、
現在ではほとんどのメーカーから発売されていない、無いから、とも言えます。
 フル・レンジ、読んで字の如く、一つのスピーカーユニットで、全帯域の音をカバーするもの。
ユニットを箱に装着するだけというシンプルな点からも、多くの方が箱を制作しており、気楽に作れるスピーカーの一つです。
音の構成はユニットが6、7割ほど、残り3割の音に関与してくるのが、” ”になります。

 箱と言っても様々な形や方式があり、代表的な方式は、密閉、バスレフ、バックロードホーン、形は大から小まで千差万別に考えられます。
今回私が制作したのは、スピーカーの中で最も数が多く、定番中の定番であるバスレフ方式、それの小型タイプです。
過去、私が経験したフルレンジが、FOSTEXのE82という箱(既製品)と、FE87(旧・旧型)というユニットで、
 そのサイズからは考えられないほどのポテンシャルを持っており、初めて聴いたときは驚いたものです。
その音と箱のサイズが大まかな基準となり、それよりも、もっとかっこよくて、もっと音がいい物を作りたい!
そんな気持ちから、この箱が生まれました。
 小型で使い勝手がよく、さらに音のいい箱。 そしてこれが私の中で、小型箱の定番(スタンダード)となる形です。 ではさっそく始めたいと思います。
木材はパーチクルボードの15mmを使います。 これは前回も説明しましたが、木材の中では響きやすい性質です。
響きやすいという事は、それだけ箱鳴りも多くなり、それを利用した低域も豊富になります。 小型箱であるがゆえ、低域の量感にはついシビアになりがちですが、
 響きやすい=響きが良い、というわけではありません。 一般的に良い響きと言われる木材は、硬い木や単板などが上げられます。
ギターやヴァイオリンなどの弦楽器では、単板の響きが良く、それ以外では考えられないほどです。
響きが綺麗で良く通る、いわゆる音圧が大きくて音が遠くまで聴こえる事でもあります。
スピーカーの場合、響きが良い物が良い音とは限らず、逆にその響きが強すぎて、他の音をかき消してしまったり、耳触りに聴こえてくる場合もあります。
そして音圧は電気の力を借りるので、さほど気にする必要はありません。

 逆に響きにくい性質の木材は、MDFと呼ばれるものになります。 そのMDFも、スピーカーの箱としてはポピュラーなもので、加工が大変しやすく、
複雑な造形の場合には、ほとんどが使われているくらい多いものです。 ユニットのポテンシャルを最大に活かしたい!という場合にも向いてます。
 ここで誤解されたくない事は、”パーチクルボード=低音出る ” はあてはまりますが、材質による響き具合はほんの数%で、
異なる材質の物をヒヤリングしても、違いが解らないほどの場合もあります。 あくまでもフィーリングの問題です。

前置きが長くなりました。 カットしたパーチクルボードを接着していきます。 中央上の右が一般的な8cm用で穴はφ75。左は10・12cm用で、穴はφ104。
フロントと上部には厚めの革を貼るので、右上のようコンマ5mmの段差を付けました。
 このパーチクルボードは難点があり、それは加工しにくい事です。 接着面の面合わせや、フロントバッフル裏のザグリなど、一般的な合板よりやりにくい。
機械のみでの施工なら問題ありませんが、私の場合ほとんどが手作業なので、よく解る難点です。
 背面板のみを残し、箱が組みあがりました。
そこに写真下のよう、”
セメント ”を流し込みます。 目的はフロントバッフルの”剛性を上げる ”事です。
剛性の高いバッフルは、飛躍的に音質が良くなる事を経験しており、施工しやすいセメントに至った訳になります。
 振動によるひび割れを防ぐ為に、家の基礎作りのような鉄骨を参考にして、木材チップなどを代用し施工しました。
セメントは湿度により硬化時間も変わってきますが、これくらいのサイズと厚みならば、それほど気にする必要もありません。
さて、セメントを乾かしてる最中、背面板の制作に入ります。
壁の奥、ギリギリに置きたい!とか輸送の事を考えると、ターミナルは引っ込ませた方がいいのですが、その分手間もかかるので、板に直付けしました。
プラスチックベースのターミナルを使うのが、楽で綺麗に収まりますが、振動の事を考えると直付けの方がいいです。
内部配線は、太くて硬いOFCケーブルを使いました。
硬いケーブルは音質も硬くなりがちですが、その分解像度も上がり明瞭になるので、相乗効果を狙ったはからいです。

 背面板を接着し全体を滑らかに仕上げた後、いよいよ外装の仕上げに入ります。 右上の写真は、左から仕上げる順番に並べてみました。
私がかっこいい!と思ったスピーカーが、イタリアの Sonus faber(ソナス・ファベール)で、それらのデザインを参考にし取り入れております。
 ここでの特徴は側面の突き板ですが、木目がバラバラになるよう、細切りカットしたものをランダムに貼っていきます。
何段でも対応できますが、あまり細いと木目が解りずらくなるので、4段にしてみました。
ただ一枚板を貼るよりも、何倍もの労力が必要になり、作業が大変という難点もあります。 黒いライン、コンマ5mmの段差も、立体的な特徴のひとつ。
フロントと上部には革を貼り、側面と底面の突き板は塗装しました。 この色はパークオーディオ・DCU-F101Wのコーンに合わせたものです。
ポートは塩ビ管ではなく既製品を使う事で、革とのマッチングも良く品格が上がりました。 このポートはプラスチックなので、振動制御・鳴き防止の為
丁寧にスポンジを巻きました。内部にもほんの少し巻きましたが、ここはポート周波数も変わってくるので応用も効きます。
このポートは見た目がいいという特徴もありますが、少しラッパ型の形状も特徴的で、円柱より効率がいいような気もします。
 そのポートとユニットを取りつけ、完成!!!
 サイズ 幅165×高さ264×奥行200mm 重さ約4.5kg(一台)
世の中には美を感じる比率というものがありまして、正面から見た時 1:1.6 にしてあるのも特徴です。

左は前回制作した台形タイプ。一番右のF80AMG搭載の物は、突き板部未塗装です。
この黒い革の部分、赤と白があるので、そのバージョンも作る予定です。特に赤は新鮮で、刺激的な物になるような予感がします。
ようやく完成したスタンダード・バスレフ箱。
8cm・10cmあたりのユニットを使うのが目的ですが、とにかくこの”高剛性バッフル ”は、頭の中の理想を具現化したもので、作り終えてスッキリしたほどです。

さて気になるインプレッションに入ります。ユニットは何度も使っているSA/F80AMGを使用。
まずは一言
 「 やばい、やばすぎる・・・ 」
何がどう作用してこんな音が出るのか解りませんが、たぶんこの手の物の中では”
最高レベル ”の箱でしょう。
響きにくいセメントバッフルの高剛性と、パーチクルボードのたっぷりした響き、硬い物と柔らかい物が合わさったようなマイルドなマッチング。
 それらの相乗効果で、具合のいいバランスが取れているのかもしれません。
この出音は最終的に、音出ししてみるまで解らないもので、結果には満足を通り越して驚いたほどです。
前回の台形タイプもそうですが、このセメントバッフルがかなり効いている感もうかがえます。
 小型の場合、低域を絞り出す為にはダブルバスレフを連想しがちで、ついその方式にしたいと考えてしまいますが、この箱はその辺りを超越してる域にあると思います。
デザインの応用は効きますが結果が良かっただけに、やはり音が全てと言えるでしょう。

DCU-F101Wもじっくりと聴き込んでみました。
簡単に言うと、SA/F80AMGよりも中・高域が綺麗で澄みきっている。とくに中域はよりクリアー質です。
 ただそのクリアー質が逆に、仇となる弱点もありまして、J-POPなどのシャリシャリしたソースや、甲高い声の女性ボーカルは
耳触りに聴こえる時もあります。3kH辺りがやや盛り上がっており、それが関係してると思われます。
 最も相性の良いソースは”クラシック ”で、室内楽からオーケストラ、JAZZなどの楽器系のみのソースとは、抜群の相性を誇ります。
ユニットの開発者がクラシック好きで、そこに焦点を合わせてみたのか?金属製のフェイズプラグを採用した事によるたまたまなのかは解りませんが、とにかく良いです。
並べての比較はしていませんが、ひょっとしたらロジャースのLS3/5Aよりいいかもしれません。

最後に。
このページを見て聴いてみたい!と思った人もいると思うので、この箱はもう少し制作する予定でおります。
手作りで手間がかかるので大量には作れませんが、もっと楽な方法を考案できればいいですね。
 ただ過去の経験上、”手間=良音質 ”と繋がっている感もあるので、手抜きをすれば、音質もそれなりになってしまうかもしれません。
吸音材のグラスウールが入手できず、フェルトに変更する点も少し懸念するところです。
もしこの箱を入手されたなら、ぜひ他の箱と聴き比べてみてください。

 別デザインで湾曲した形、B&W風の箱の材料があるので、早々に取りかかりたいとも思いますが、
また間が空いてしまうのと、やけに寒いので、次はメーカー製に着手する予定でおります。お楽しみに♪

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