●今回は完成度の高いイギリス製品の中でも U
女性ボーカルが美しいと評判のハーベス・HLコンパクトのご紹介です。 U
 ロジャースやB&W、タンノイなどに代表されるイギリス製品は、いつも音を聴くたびに U
チューンの必要はないかな、メンテナンスだけで十分かな、なんて思えるほど音が完成されてます。 U
ですがメーカーの違いに関係なく、完成度の高さ故の弱点や、イギリス製品の象徴的な弱点も随所に見られます。 U
 今回のHLコンパクト(以下HLC)も重大な問題が有り、オーナー様の気持ちに応えるべくお受けしました。 U
なのでその問題はもちろん、イギリス製品に多い弱点の克服などなど、見応え十分の内容になったと思います。 U
それでは、HLCのフルレストア&チューンを、どうぞご覧ください。
 U
●箱から取り出した状態。
正面からパッと見、一見どこが「 やばい 」のかわかりませんよね。
実は重大な問題がありまして
●それがこれ
ツィーターではなく(^^;

銀色に光る”ネジ ”が完全に固着して外れません。

このネジ、一見普通の+に見えますが、
若干+の幅が広く、一般的にある太めの+ドライバーでも少しゆるく、噛みにくくてなめやすい。
そしてイギリス製品の特徴その1が
 「 超高精度のネジ 」
精度が高いのは悪いことじゃありませんが、そのまま何十年も経ったせいか、完全に一体化してるのでは?と思えるほど固まってます。
そんなネジを交換しようと試みた結果
●こうなってしまったという訳です。
完全に+がなめてしまってますね。
ネジザウルスGT という特殊な道具も試されたようですが、まったくはがたたなかったそうです。
とりあえず私も、ネジ山が潰れていないネジ外しに挑戦してみました。
1発目は+がすぐになめてしまい×、2発目に高トルクの電動で一気に回したところ、ナット自体が空回りでX、というような惨敗で終わってしまいました。
こうなってしまうと、もうタメ息しか出ませんよね。
やってみたからわかりますが、これを何本か外されたオーナー様に感心するほどです。
●ところがこのHLC、なんとフロントバッフルが外せます!
これならなんとかなるかも・・・と思ったのもつかの間
●すでにご苦労の跡が垣間見れる状態に。
左は通常の状態で、右は糸鋸か何かで切ったようです。
そうとう苦労なさったのが伝わってきます。
そして裏から凸てるネジを■に削り、噛むようにしてから回してみると、ポキッとあっさり折れました(TT)

 これはもう完全に一体化しています。
●そして最後の手段、ボール盤を使いネジを切る事に。

最初からこうすればいいのではと言われそうですが、
これをやるとユニットのフレームやバッフルにダメージを与えてしまう可能性があるので、できるなら手動で外すのが一番です。
●まずは大前提のユニット外しが、ようやく完了しました。
ネジ外しの器具なども色々売ってますが、それらではたぶん外せないレベルだったと思います。

 ユニットが外れなくても音は出せるし普通に使えます。
でもそんな中途半端なままだと、何かモヤモヤして気持ちも落ち着かないですよね。
この写真を真っ先にオーナー様に送ったところ、とても喜んで頂けました!
第一段階の終了、ここからが本番です。
●まずはネジを切った事によるダメージを補修します。
ウーファーのフレームはスチールなので問題なかったのですが、ツィーターのフレームはプラスチックなので、ネジを切るさい、あっさりと溶けてしまいました。
2本目からは溶けないよう、冷やしながら慎重にやりましたが、それでも少しダメージを与えてしまいました。
ネジ穴を埋める補修は難しくありませんが、振動に対する強度も必要なので、ここは大事をとり、別のプラパーツを移植することにしました。
上が切り出した部品で矢印部が装着した模様です。
裏側から溶かして密着・接着したので、強度はまったく問題ありません。計3ヶ所直しました。
形を整えて完成です。
●次はバッフル側。
このままではネジ止めできないので修復します。
穴を埋めて木ネジに変更するのが一番簡単な方法で、固着もせず安心もできますが、やはり純正と同じように修復することにしました。

←上が純正のナットで、下が用意した爪付きナット。
純正は写真からでもフィーリングが伝わるくらい高精度です。こういうナットやネジを普通に使ってるあたりが、外国製品のレベルの高さに繋がってるのでしょう。
ただナットの役目はユニットの固定なので、ネジの精度が普通でもさほど問題はありません。
●新しい爪付きナットをバッフルに装着しました。
まずは元穴のサイズが大きいので、MDFを削って作ったパテで軽く埋めます。その後爪付きナットを定位置に固定。
バッフルがMDFという事もあり、さらに大事を取ってエポキシで頑丈に固定しました。
これでナットが空回りする心配もありません。
爪付きナットやMDFは自作でさんざん使ってきたので、こういう所で経験が役立ちます。
●機能が戻ったところで、見た目の仕上げに入ります。
まずは表面にちらほら見える小傷を修復。
サーフェーサーを塗って整えた後、本塗装に入ります。
背面板やネジ、ウーファーのフレームも同じ塗料で塗装しました。
塗装前に別のMDFで色合わせをおこなったので、純正と同じ色艶でばっちり仕上がりました。
●こちらはウーファー。
フレームにあった傷を磨いてから塗装します。

次はイギリス製特有の問題ではなく、ネジを外そうとして切った時に出た鉄粉が、至る所にちらばってしまった問題です。







●これはウーファーのフェイズプラグ。まるでピノキオの鼻のような形が特徴的で、見ただけでハーベスと解るほど個性的なものです。
 その下の矢印部分、細かい鉄粉がびっしり付いてるのがわかるでしょうか。
写真だと平面に見えますが、実物は指が入らないほどV字の場所です。
一般的なウーファーにはキャップがありますが、これは内部からプラグが飛び出してる構造で隙間があいてます。その隙間から鉄粉が入り込み、コーンを動かすとザザッというような引っ掛かりが感じるほどでした。

 誰しも一度は、砂場で砂鉄集めをした事があると思いますが、磁石に付いた砂鉄を手で取ろうとしても、思うように取れません。
それと同じで、強力なマグネット引き寄せられた鉄粉は、掃除機程度じゃ取れませんでした。まして内部まで入り込んでるとなると、マグネットとフレーム内部の全てを分解しなければなりません。
これを放置して鳴らし続けると、後々ダメージが大きくなる可能性もあるので、完全に取り除く必要があります。
●変わってこちらはツィーター。
左の矢印部分、ドーム保護網の中央がうっすらと茶色になってるのがわかるでしょうか。パッと見汚れに見えるそれは何か意図的に貼られているようです。
 本体のフレームはネジ止めですが、背面カバーは接着されてます。コイルを確認するのにカバーを外す必要はないですが、鉄粉の事もあるので一応剥がしてチェックしました。
そのカバーには十円玉(黒●)のような物が貼ってあり、これはダンプ材だと思われます。
日本製ならフェルトかガムテープ(笑 と言ったところでしょうか。おもしろいですね。
●お次は背面板。
こちらもフロントバッフル同様木ネジ留めです。
木ネジは固着の心配はありませんが、錆びついてるので交換の必要がありそうです。
●ネジを外すとすんなり外れました。
箱の内部、内側には厚さ5mmほどの黒いブチルゴムが貼られており、その上から黄色のスポンジで覆われています。
内部の空間は左写真のよう、白い綿がぎっしり詰められており、まるで密閉スーピーカーのような勢いです。
箱を振動させない、響かせない構造は、石造りの家が多いヨーロッパ製品の特徴でもあり、イギリス製品もまた同様の特徴です。
背面板のぶ厚いスポンジをそっとめくると、ネットワークが顔を出しました。

部品点数の多さに目がつきます。
そして一瞬見入ったのがこれ
 ERO(エロ)のコンデンサー
昔TEAC製品をいじっていた頃、ヴィンテージ製品を扱うショップからこのコンデンサーをたまたま入手し、
いい音だな〜 」などと好んで使っていました。
 こちら
それがハーベスに使われいているとは驚きです。音質は折り紙つき。
●ただしこのネットワークも、イギリス製品の悪い特徴をそのまま受け継いだものでした。

 まずは基盤の固定方法、写真にあるターミナルのみで留められてます。
ターミナルが4本なので固定には問題ありません。
ですが力強く締めすぎてるせいか、
●基盤が微妙に歪んでます。
少しわかりにくいですが、大きな基盤の中央部だけに力が加わり、凹にように歪みができてました。

 これはイギリス製品全般に言える問題で、基盤の歪みによる接触不良はおろか、基盤自体がぱっくり割れている物を何度も見てきました。
いずれにせよ対策をした方が安心できます。
●接点のチェックとクリーニングをするために一度外します。
この基盤は通電部分の表面積が、大きく取られているのが最大の特徴です。太いケーブルと細いケーブル(表面積)の差のよう、一般的な基盤よりも効率が良いのは一目瞭然です。
これはイギリス製品全般に多く使われており、たいへん質が良く水準の高い、見習うべきネットワーク基盤だと思います。

そんな優秀な基盤 で す が
●接続部がこれじゃダメですよね。
ワッシャーの爪部分、何ヶ所か光ってるのがわかります?
そこが唯一基盤と接触してる部分で、通電するヶ所でした。
見た目でわかるよう酸化が激しいので、不良が起きるのは時間の問題だったかもしれません。
基盤をがっちり固定し、ネジが緩まぬようにするのがワッシャーですが、それが接触不良を生み出す要因になっていたようです。
●そしてこちら
上のワッシャーによる接触不良がすでに起きていたようで、片側だけ処置が施されてありました。
左側は何もない基盤で、右側(矢印)には丸型端子が付けられています。
施工の仕方を見ての推測ですが、持ち主がメーカーにクレーム、もしくは修理に出して、メーカーが補修したように感じられます。それだと片側だけという事もうなずけます。
アメリカ製のよう、左右で違う物を付けるとは考え難いので(^^;

ただ見る限りこれでも不安定ですし、片側だけなのでバランスも悪いはずです。
●そこで両方とも同じよう作り直すことにしました。
まずは基盤に穴を開けます。
右下の抵抗が邪魔なので位置を変えました。
●その穴に銅線を通し、さらに銅ワッシャーをサンドイッチ状に固定して完成。
銅でしょう(笑
これで接触不良が皆無になるのは、見た目でも感じますよね。
もちろん左右でのバランスも整うはずです。
基盤の裏側にはウレタンスポンジを貼りました。
コンデンサーはまったく問題ありません。
このHLCはできるだけオリジナルの音を維持して欲しいというオーナー様の要望がありましたので、
●部品はケーブルのみを交換しました。
端子部分も金メッキにして絶縁もばっちりです。


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