●今回はビクターはおろか、日本製のTOPクラスを誇る2wayスピーカー
 「
SX-V1の登場です。

 SX-V1(以下V1)は過去に何台か登場してますが、
私が手がけてきたV1は30台オーバー(V1が25台目たぶん、V1Xが6台)になりました。
今回のV1はフルチューン仕様ということもありますが、
V1特有の問題が出ていた固体だったので、アップすることにしました。
V1オーナーは必見です。それではご覧ください。 U
●今回のV1はメンテナンスとチューニングの御依頼を受けました。
←程度は上の中と言ったところでしょうか。
極小さい打痕は少しあるものの、かなり綺麗な筐体です。

V1は数の少ない機種ですが、私の元へメンテナンスにやってきたのが今年は4台目。
平均すると1ヶ月に1台くらいでしょうか。
V1とダイヤトーンは、いつも何かしらあるといった感じです。
●さっそく分解しました。
(分解工程は以前のページをご覧ください)
 
 「 解体マニュアル 」 

何度やっても緊張する作業です。
●さて今回のV1、一番の問題点はこれ
ウーファーコーンの剥がれです。
 A.この剥がれはなぜおこったのか? 
そこが一番の問題点なんです。
他にはコーンやエッジに付いた汚れやカビ、エッジの小変形という問題がありました。

 V1のコーンは硬い紙の上に、和紙に近いような素材を貼り付けてある2重構造のコーンです。
この表面の紙が色々と問題でして、破れはもちろん、汚れなど、クリーニングしにくい素材なんです。 
厳密にはできますが、色が変わったり変形しやすい素材なので、多少汚れていても極力触らないようにしています。だからオーナー様に了承を頂いてからの作業なんです。
●溶剤を使うとコーン(表面の紙)がボロボロになるので使えません。
ここはこのように作業します。
●慎重にキャップを剥がしました。
へたにやると表面がべろっとはがれてしまいます。

写真ではわかりにくいですが、ボビンも少し変形してました。
●まずは剥がれを補修します。
紙に染み込みにくい固形接着剤を使い、慎重にはがれを接着していきます。

よくある水性ボンドや、Gクリアー、スーパーXなどを使うと、すぐシミになり取れなくなるので注意。

シミを隠すために塗装すると、紙表面の凸凹がすぐにフラットになってしまう。
そんな気難しい素材です。
●とりあえずはがれを接着しました。
完全に乾かしてから、均して凸凹を目立たなくします。

このような剥がれはV1には多く見られる症状ですが、場所によって問題点が異なります。 
エッジ周辺やコーン中央部などの剥がれは、いわゆる劣化によるもので、環境や湿気によってそうなる場合が多いです。

今回のようセンターキャップ周辺の剥がれの場合、
 
重大な問題を引き起こしてる可能性があります。

ボビンの歪み→コーンの一部に変な力が加わる
 →コーン層の分離→剥がれ、となります。
ではなぜボビンが歪むのか?

それはこのダンパー
←スパイダーサスペンション(ダンパー)に原因があります。

唯一無二の存在であるスパイダーサスペンション、長所は劣化しない・へたりにくいという素晴らし構造の素材です。
一般的なダンパーのようにヘタリがほとんど無いので、沈み込むような劣化も無く、20年近く経った物でも、
 まるで「
新品のような動き 」を維持してます。

短所はその硬さによるもので、何かの弾みでパキッと折れてしまう事があります。
そしてその硬さが仇となり、
今回のような問題を引き起こす場合があります。
●そして原因を判明しました。
写真が暗くて見え難いですが、原因(矢印部)はスパイダーサスペンションの接着不良。
いわゆる組み方の問題です。
矢印部分にボンドの塊がありました。
●こちらはダンパー側に付いた塊。
  「
1mm以下、たったこれだけの原因なんです

 スパイダーサスペンションを取り付けるさい、わずかな段差ができてしまったことで、ダンパーにかかる力が均等・水平ではなくなります。そのまま何十年も鳴らされ、少しづつ歪が生じていったのでしょう。
 一般的なダンパーは柔らかいので、変な力がかかっても、そこだけにとどまります。
スパイダーサスペンションは、
硬さゆえの弱点があり
車で言う
ストラットタワーバーみたいなものです。
タワーバーを装着した車は、右をぶつけると左も連動してダメージを受けてしまいます。
 このスパイダーサスペンションは、そんなタワーバーと同じ原理で力が流れてしまい、
ボビンの変形 → コーンの変形 → コーンの剥がれ
といった経緯からきた
症状なんです。
●わかりましたか?
まさに諸刃の剣と言えそうな構造のスパイダーサスペンションですが、きっと何十年後にそんな事が起こるなどとは、想像もつかなかったでしょう。
 単純な問題が大きくなってしまうのも、能力の表れなんでしょうね。最高のダンパーに変わりはありません。
さて、それ以外に

・ボビンの変形を修正
・スパイダーサスペンションの表面をフラットに再調整
・コーンは特殊液体でクリーニング
・かさついたエッジをしなやかに

などの内容をおこない
●完成です。
←いかがでしょう。
かなり綺麗に復元できました。
もちろん音質もばっちりです。
 小さな黒い点シミも落とすことはできますが、コーンを痛める(削る)の極力やらないようにしています。

 
V1オーナーの方、エッジが微妙に歪んでませんか?

それはコーン←ボビン←ダンパーからきてる原因かもしれません。
微小の場合は、あまり神経質になるほどではないので大丈夫です。ただ大音量は避けた方がいいかもしれません。
●さて今回はネットワークのフルチューンになります。
●内容はコンデンサーとケーブルの交換。
全ての接続を見直し、大きな振動でも動かぬようしっかり固定しました。

ユニットのポテンシャルが高いスピーカーの場合、
効率的な6dB/octとの相性が良いですね。
クロス値は変えてません。
●細かい部分
このような接続部品も
●ターミナルと同じ金メッキ素材に交換しました。
目でみてわかる違い同様、音質にもそれらは表れます。
完成したネットワークを箱に装着します。
ネットワークとターミナルが直結なので、接合部等もきちんと処理しました。

←このフロントバッフル、表面にルーターの焦げ跡が残ってますね。
簡単なバリ取りていどでは、ここまで焦げ跡はつかないので、バッフルを取り付けるために微調整したと思われます。
きっとメーカー側も苦労したのでしょう。
3台に1台はこうなってます。
●ばらした手順とは逆に組み上げていきます。
最後はVKチューンの証であるコーションプレートを貼り
●祝!完成!

いかがでしょう。
●ユニットはもちろん、外装も磨いたので、
新品とは言えませんが、かなり綺麗になりました。
●さて、軽くエージングした後さっそくの音出し
まずは一言 


 「
やっぱいい音だな 」

 日本製としては何かこう、余裕ある落ち着きと言いますか、 
どんなソースでもコクと深みが味わえます。 

 ネットワーク構成はJBL L26と同じ簡素なものですが、 
アルニコの恩恵がかなり表面に出たフィーリングです。 
これでもしツィーターもアルニコだったら、たぶん日本製で最強になったはずでしょう。 
そんな素晴らしいユニットを持つV1ですが、 
全てのパーツを吟味(チューニング)してやると、さらなるポテンシャルアップが期待できます。 
V1オーナー様はぜひチューニングしてください。 
癖が軽減され、驚くほど素直な音色に変わります。 

最後に。 
 今回はメンテナンスとチューニングの御依頼でしたが、 
実際にはメンテと言うより、修理に近い内容になりました。 

 今年に入ってから4台目のV1で、まだ待機が3台ほどありますが、 
今回のような症状(ウーファー)は5、6台に1台くらいですかね。 
そうそうあるものでは無いですが、エッジが変形してるものはもっと多いので注意も必要です。 

 YAMAHAの10M同様、このクルトミューラー社製のコーンは、 
JBLのリコーンキットのよう、最初から消耗品として考えて欲しかったパーツですね。 
もしリコーンできたとしたら、今でも台数が多く、もっと安心して使えてるはずです。 
V1はとても良いスピーカーだけに残念です。 

 私は平均して月に1台くらいV1にさわってるので、良い所も悪い所も熟知しており 
愛情込めてメンテナンスしております。 
ただ「
ツィーター音出ず 」という問題もわりと多くあります。 
これはV1が低能率のせいか、過大入力により飛んでしまう(コイル焼け)場合があります。 
断線だけなら簡単に修理できるのですが、コイル焼けはパーツが無いので修理できません。 
だから泣く泣くお断りしております。 
修理するよりも中古を購入した方が安く上がる場合もあるので、一度ご相談ください。 

 そんな気難しい性格のV1ですが、ビクター製品はおろか、 
日本製の中でも間違いなくトップクラスのスピーカーです。 
私もV1オーナーの一人ですが、 
これからも日本が誇れるスピーカーで間違いないでしょう。 
Victor SX-V1 」いつ聴いても良いスピーカーです。 

次回、お待ちいただくこと約5ヵ月、「
ついに完成! 至高の4311 」 必見です♪ NEXT↓

Victor SX-V1-M 1995年 1台 ¥150,000円(ペア)
メーカー解説:マホガニー無垢材キャビネットと真鍮ダイキャストボードによるバッフルボードなどの新技術を投入して作られたスピーカーシステム。
 低域には14.5cmのコーン型ウーファーを搭載。
クルトミューラー社製コーンを採用、アルニコでしっかりしたエネルギーバランスを獲得。
また、高リニアリティを実現した新形状のスパイダーサスペンションを採用、ロングストローク・レスポンスを実現しています。
 高域には2.5cmソフトドーム型トゥイーターを搭載。振動板には優れた指向特性のシルクソフトドームを採用。
また、指向性を改善するショートホーン形状を採用、音像の明確化と音場の拡大を実現しています。

 バッフルボードには剛性の高い真鍮ダイキャストボードを採用。
キャビネットには響きが美しいマホガニーを無垢のまま使用、組み上げた後に樹脂含浸を施すことで、無垢材特有の経年変化を解決しています。
ビクター伝統の木工技術を駆使して表面を丹念に磨く事で接合面をフラットにし、木目の美しさをより引き立てています。中略
方式 2ウェイ・2スピーカー・バスレフ方式
使用ユニット 高域用:2.5cmドーム型 ・低域用:14.5cmコーン型
再生周波数帯域 55Hz〜30000Hz
インピーダンス
出力音圧 87dB/W/m
クロスオーバー周波数 4.0KHz
外形寸法 幅200×高さ340×奥行260mm 約L
重量 8.0kg


   ・・・ 
                   至高の4311へ!