●前回に引き続き、自作箱の紹介です。
以前箱を作ろうと材料を調達し、忙しくて作る暇が無く、そのまま放置してありました。
メーカー製スピーカーも、未だに数多く眠っておりますが、こういう物を作りたくなる、手先を動かしたくなるのは、実はストレス解消の為、体がかってに反応してるのかもしれません。
設計は1、2年ほど前になるか?今の考えとは違い、意欲的で複雑な設計。だからついつい、腰も重くなりがちです。
●さて、材料はパーチクルボードの15mm厚。 パーチクルボードは5mm〜20mm程の、割と大きめのチップを圧縮し、固めて成形されたものです。
コストが安いという事で、多くのメーカーでも使われておりますが、その特徴は、一般的な木材やMDFよりも”響きやすい ”という点にあります。
科学的根拠はわかりませんが、この響きやすい性質は、いわゆる”箱鳴り ”へと繋がります。 箱鳴りはメリットとデメリットがありますが、
”低域の量感が増える ”というメリットもあり、それを活かす狙いでパーチクルボードを選定してみました。
使用するユニットはフルレンジなので、特に低域は重要になり、満足を得られるような量感を目指したいと思ってます。 |
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●切り出したパーチクルボード、一度仮合わせをおこない、パーツごとに分けていきます。 最初に取りかかったのはフロントバッフル。
下書き後、穴をあけます。次にザグリをあてた後、その周りにプラ板で囲いを作りました。この囲いが、のちに重要な役割を果たします。
フロントバッフルの加工が終わったら、背面板のみを残し、その他パーツを接着していきます。 |
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●今回の箱は四角ではなく、台形です。なので接着後、不要になる部分をカットします。 パーチクルボードの断面は、チップの集合体なので、
カンナをかけると引っかかってしまい、うまくかける事ができません。 だから中央上のよう、手ノコである程度仕上げていきます。
普通の木材やMDFとは違い、凸を修正するにも手間がかかり、作業性の悪い木材でした。
次に私の自作品、最大の特徴でもある「 セメント 」を流し込みます。 その為バッフル裏に囲い作り、堤防代わりで取り付けたというわけです。
セメントは、普通のホームセンターに売っているものですが、水だけでOKという簡単で、比較的粒子の細かい物を選びました。
フロントバッフルをセメントで施工にするわけですが、振動による耐久性はどうなのか?というのが一番懸念するポイントですので、
家の基礎作り同様、鉄骨の代わりとして、木材のチップやらをまばらに固定しました。 これで振動にも強い構造となり、ひび割れもおきにくくなるはずです。
セメントの厚みは約2cm。 写真はセメントを流し込んだ直後で、この後2、3日乾燥させます。 |
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●セメントが固まったら、内部を塗装します。この塗装は響き方うんぬんではなく、箱の耐久性を上げるのが目的となります。
以前は塗料に炭を混ぜた物をわざわざ作り、使っていましたが、今回はそれの既製版で、初めから炭入り塗料として売られているものを使ってみました。
この塗料、何か独特の匂いがしますが、一般塗料よりは湿気に強いというメリットがあるはずです。
内部を塗装後、吸音材(グラスウール)を入れ背面板を接着し、ようやく一つの箱になりました。 ポートは見た目優先の為、塩ビ管ではなく既製品を使います。
ユニットを装着し、軽く出音を確かめました。制作前に想像していた音に近く、安心できた瞬間でした。
ちなみに吸音材のグラスウールですが、最近は住宅エコポイントの影響で、どこに行っても売り切れ状態。 私の買いだめはまだありますが、欲しい時に無いと困りますよね。 |
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●さて、今回の最難関である、仕上げに入ります。昔の設計なので、その時の気持ちは忘れてしまいましたが、当初は左上のように、杉板をサイドに貼る予定でおりました。
この板厚は20mmあり、貼ってしまう見た目のバランスが崩れそうに感じたので、今回は止めました。
フロントバッフル面は前・上・後と、最初から一枚物の木目にする予定でしたので、サイドは木目ではなく、”革 ”を使う事にしました。
真ん中上・この革は合成ですが、本革に近いしっとり感があり、ソファーや椅子などに使われている、比較的グレードの高い革です。
本革は湿気によりカビが生えたりしますので、こういう物は逆に合成の方が、いいのかもしれません。
その革をサイドと、板厚分の断面にも貼っていきます。この革は厚手で伸びにくく、アイロンも使用できないので、角の部分を綺麗に貼るには大変でした。
写真のよう、角には全てRを付けてます。 接着後はみ出た部分をカットし、その後突き板を貼っていきます。
この突き板を貼る作業も大変でした。 例えば、サイドの板を接着する前、革、突き板と個別に貼り、その後組み立て接着する。
そういう工程なら、もっともっと楽にできたでしょうね。
ただそうすると、突き板をカットせざるおえない事とか、セメントを流し込むタイミングにも問題が出てきます。 台形という点も、やり難さに拍車をかけていました。
とにかく、こういう頭の中で考えた創作品を具現化するのは、大変な手間と労力がかかったほどです。 |
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●で、完成!!! 幅165×高さ270×奥行(最大)270mm 重さ約5kg(一台)
ターミナルは廉価版で、配線はベルデンの9497、端子も取り付けてあります。 サイドにはアクセントで、細く切った突き板を貼りました。
2種類作り、SA/F80AMGの方は白木色の突き板と黒革とのコントラストが良かったので、3部艶ほどのクリアーで仕上げました。
ただクリアーを塗ると、せっかくの白木が若干黄身がかってしまい、ちょっと残念です。
そうそう、この形ですが、私の好きな Sonus faber(ソナス・ファベール)、その中にあるスピーカーとほぼ同じ比率(角度)にしました。 |
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●こちらはパークオーディオの、DCU-F101W バージョン。このユニット、コーンが木目でしょ。その木目に合わせる為に、バッフルをこういうデザインにしたわけです。
塗料は2種類のオイルを使い、色味も近づけました。太陽光による撮影で反射しがちですが、実物は近似しており自然な風味です。
このユニットだが、木目を縦か横、水平・垂直になるよう設置すると、写真の用に、ネジ穴が少し中途半端な位置になってしまいます。改善して欲しい個所ですね。 |
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●さてさて、箱の完成後しばらく放置し、接着材や塗料を馴染ませてから視聴。
さっそくインプレにはいります。
SA/F80AMGは、過去様々な箱に入れ視聴してきました。 この箱の場合、その特徴である低域の量感が、最大に活かされているようです。
箱の響きを最大限利用してるので量感もあり、迫力たっぷりの低域で、一つの目標としていたケンウッド・LSF-777やB&Wのような外国製・ハイエンド機種のような、
ボソッ・ボソッというような鋭い切れ具合も少し感じられ、中々の良好ぶりを発揮してます。これが高剛性・セメントバッフルの恩恵かもしれません。
F80AMGの弱点とも言える刺さるような高域も、量感ある低域のおかげで、かなりマイルドになり中々の高バランスでした。
中・高域の音も正確に伝わっており、”セメントバッフル ”は大正解だったと、実感できました。
対してDCU-F101W、このユニットをまともに聴くのは始めてですが、これも中々、優秀な音のでるユニットですね。
金属製フェイズプラグしかり、見た目の構造通り、かなり明瞭な高域が伸びてきます。 その特徴的な高域ですが、
高級なツィーターが付いているのか?と、錯覚させられるほど質がいいです。
中域もクリアー質で、F80AMGよりさらに透明感を増した感じです。 その分低域は、F80AMGに比べると若干量感が少なめでした。
重心が中・高域よりなので、低域が聴こえにくくなるという原因でもありますが、低い音は十分に出ており、全体のバランスは中々のものです。
F80AMGの一歩上をいく音質に感じました。 ただしその刺激的な高域が、ソースによっては仇となり、特にJ-POPの場合、
シャリシャリ強く感じすぎ、うるさく聴こえるソースもあります。
総合的なバランスは、ボーカルものを聴くならF80AMG、楽器系ならF101W、といったところです。
私の自作品で最大の特徴でもある”セメント ”を使用した”フロントバッフル ”。 なぜこのような構造にしたのか、先にも少し書きましたが、
過去様々なメーカー品をメンテしてきて、ビクターのSX-V1と、ケンウッドのLFS-777、それらの音は解像度が良く、特に低域は素晴らしいものでした。
その2つのスピーカー、最大の特徴は”金属バッフル ”だった事です。
その金属バッフルはかなりの効果が感じられ、解像度がUPするのはもちろん、特に低域の質の向上には、かかせない存在だと感じていました。
もちろん金属を使うのがベストかもしれませんが、加工はもちろん、コストも大幅に上がってしまいます。
そこで気軽に施工できるセメントを使い、バッフルの「 高剛性化 」をはかったわけです。
セメントですが、剛性はかなり高いと思われますし、重みも増してるので、不要振動にも効果がありそうです。
共振が少なくなる=解像度が高いという事で、音像のブレが減り正確に伝わりやすく、それらは低域の質にも貢献するというわけです。
平行面が少ないのは、中・高域に効いている感じがしました。 とにかく小型箱としては、レベルの高い域に達していると、自己満ですが感じました。
以前コンクリートでできたスピーカーを、2種類聴いた事がありますが、それらとは基本的に違います。
この高剛性バッフル、これから作る作品の全てに施したいくらい、良質な結果となりました。
下の写真、自作箱で有名な、スパイラルホーンが装着されている箱です。 そのホーンの塩ビ管は結構太いもので、内部は凸凹のスポンジが装着されてました。
こういうタイミングで他の自作箱を視聴できるのは、自分の作品と比較対象できるので、とても参考になります。
ただし人様の作品を評価するのは、心苦しくもありますが、私なりの見解ですのでご了承願います。
このスパイラルホーン、低域の量感を拡大する為の措置らしく、凄い低音というイメージがあり、ずっと気になっておりました。
ユニットは同じものF80AMGを使います。 胸躍らせさっそく聴いてみたところ、思ったより低域は出ていませんでした。タイトな感じです。
バスレフとバックロードの中間と言いますか、その特徴的なホーンからは、想像以上に中域が出てくるので、その分低域が薄く感じます。
このF80AMGは中域が凹み気味のクリアー質傾向ですので、そういう意味ではバランスが取れております。
ただ低域の量感が少ない分迫力に欠けており、ユニットの長所を活かしきれていないようにも感じました。
良く言うと全体がスッキリしており、綺麗系な音といったところでしょうか。 箱の作り込み精度は、あと一歩という感じがしました。
お話は変りまして、左下、この茶箱の隣にある箱が、私のスタンダードとして設計した箱で、制作途中になります。
スパイラルホーンより低域の量感は2倍・・・。 次回紹介しますので、お楽しみに♪ |