●2016年6月、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
ついこないだまで、とても過ごしやすい季節が続いてましたが
梅雨に入り、一気にじめじめした天気に変わってしまいましたね。
昼夜の寒暖差が激しいので、ビタミンと睡眠をしっかりとってください。

 さて今回は、世にも珍しいスピーカー「 ALLISON FOUR 」のご紹介です。
こちらは常連様からのレストア依頼の品ですが、インターネットで調べても
情報がぜんぜん出てこなくて詳細不明です。
サイズはBOSEの301くらい、たぶんアメリカ製だと思うのだが詳細はいかに。
それではどうぞご覧ください♪
 U
●むむむ
ずいぶん変わった形のスピーカーが登場しました。
←パッと見、黒網部分にユニットが入ってるのではと
想像できますが、それ以外はいっさい不明。
バーチャルな感じです。
外装はけっこうすすけた感じで黒いです。
ALLISON FOUR アリソン フォー?というプレートが貼られています。
今は汚れがひどいですが、見た目以上に作りが良く、ゴージャスな質感が伝わってきました。
●背面を見ると、真ん中、小さなターミナルの上部になにやらスイッチが付いてます。
私が以前、好んでチューニングをおこなっていた
 「 切り替え式 」にそっくりです。
こちらは3段階に切り替わり、たぶん高域の特性を変化させるものだと思いますが、音出しするまで不明です。
 左右の上端に、一度穴を開け、それを塞いだような跡があります。たぶん最初はバスレフ設計の物を、ヒヤリング後に密閉に変更したのかな?と思われます。
きっと音質にも、こだわりをもって作られたのだろうと、ふと想像してしまいました。
●さて、こちらはご依頼品なので、音出し前にまず全体をチェックしていきます。
右側矢印、鉄でできた黒網を外します。
この網は左右の端が爪のように曲がっており、それをスピーカー本体に引っ掛けて留めるといった具合ですが、弾力のある網なので、矢印のよう四方向へと突っ張る力がかかっています。
だからカタカタと揺れたり、ビビリの心配もなく、良く出来た物でした。
●網を外すとツィーターが顔を出しました。
本体の角が斜め45度になっており、その部分4ヶ所にツィーターが搭載してある構造です。
さっそくツィーターを外します。
●外れたには外れたのですが・・・
←のネジ、わかります?
ネジの青い部分はネジロック剤のような、ゴム系の弾力ある塗料で塗られています。
これのせいでネジ回しが終始重く、ナットが空回りしないか冷や冷やものでした。
ロック剤をしっかり塗ってあるのは、スピーカーにとってはとても素晴らしいことです。
ですがメンテナンスする身になると、冷や汗ものです(^^;
●そしてもう一つ
このツィーターはご覧よう、ドームが紙製で、
そこに直接コイルが取り付けられている構造です。
JBLのアルニコツィーター、LE20とほぼ同じ構造です。
構造は問題ありませんが、ご覧のようリード線がむきだしなので、扱いには注意が必要です。
●そしてこれ、1ヵ所だけドームが凹んでいました。
左は修理経過中で、元はもっとべっこりいってました。
このドームは紙製ですが、簡単に言うと、お祭りの金魚すくいのポイ。
モナカのように、軽い力で粉々に崩れていきそうな質感です。
なので修復するには一度水で濡らし、ふやかしてから凹みを修正していきます。
塩梅を見ながら繊細な作業の連続で、ここだけでも数時間かかってしまいました。
修復後は紙を少し強化してやります。
LE20の修理より難しかったです。
●さてお次はこちら、上部の網にとりかかります。
実はツィーターの4ヶ所ある網のうち、3つはすんなり外れたのですが、1ヵ所だけエポキシ系ボンドでガチガチに接着されており、強引に外そうとすると網が粉々になってしまうので、外すだけでも3時間以上かかる大変な作業でした。
なぜ1ヵ所だけボンドで固められていた?
それは↑上のツィーターの凹みの場所で、まるで見られないように隠そうとした?とも思える感じでした。
アニメのジョジョ的に「 やれやれ 」です(笑
●ツィーターが斜め45度に2ヶ所で、天板にあるこちらはウーファーでしょうか?
けっこう網目が細かいので、ご覧のよう光を当てても中があまり見えません。
先のとがった棒を横からさして持ち上げます。
すると網はすんなり外れたのですが・・・
●・・・
うわっ・・・・・・(^^;

もう笑うしかないですよね。
エッジがダメになり、そのあたりのタイミングで
テープ補強されたようですが、その後また取り除いた
といった具合でしょうか。
埃(ほこり)の積もり具合が半端ないですが、天板なのでこうなるのは必然なんでしょう。
●さっそくウーファーを外します。
が・・・問題2

このネジもご丁寧にネジロック剤がたっぷり塗られており、
手回しで回すと、終始トルクがかかった状態です。
こういうのは電動で一気に回すと、あっさり空回りする場合が多いので、手作業で様子を見ながらじっくりやるのがベストです。
●そしてようやく外れました。ふぅ
ウーファーのネジは何ヶ所か空回りしてしまいましたが、ツィーターの穴から手を突っ込み、裏側からナットをペンチで押さえる事ができたので外せました。
ツィーターネジの空回りも同様に、手を突っ込んで回避できました。
だがもしツィーター、ウーファーとどちらも外れなかったら・・・
想像したくありません(笑
●左矢印、空回りしたナット部分。
ベースがパーチクルボードという事もあり、手でゆっくり回しても空回りしてしまいました。

高密度パーチクルボードは80年代に多く使われた素材で、響きのバランスが良く、音響的にも優れております。
ですが水分で変形しやすいのが短所で、一度膨らんでしまうと元には戻りませんし、軽く触っただけで粉々になる場合もあります。
ただし合板に比べ反り(ソリ)が出にくい長所があり、ネットのフレームにも多く使われました。
70年代→合板、80年代→高密度パーチクルボード
90年代〜はMDF、というように使われる素材も変わっていきました。
●さてさて、ユニットが無事外れたので、次は内部検証に入ります。
天板のウーファーを外し、麻布→グラスウールをずらしてみると、ネットワークが現れました。
ふむふむ、何やら凝った作りになってます。
コンデンサーも、当時の上物が使われてるし、切り替えは高域の減衰(能率DOWN)だけではなく、ウーファーの特性も変えてるようです。
その切り替えスイッチ(矢印)が
●こちら。
構造的には、70年代のダイヤトーンで多く使われているロータリースイッチと同じですが、こちらは接点面が大きいのと、スプリングで制御されており、動作がしっかりしています。日本製でしょうか? コンデンサーしかり、良い部品が使われています。
 さっそく構造を探るべくネットワークを外そうと・・・
問題3
このネットワークはベース板(MDF)にバラバラに接着されてる上、ベース板も大きな面で接着されてます。だから取り外すとなると、背面板を壊すような勢いになってしまいます。
外せなくはないですが、箱にもダメージがいくので、それを修復する手間もかかります。JBLのようネジ止めなら良かったのですが。特別問題もないので、オーナー様とご相談の上、メンテナンスのみにしました。
頭にライトを付け、両手を突っ込んでの作業です。
ウーファーにうつります。
フレームは一般的なスチールで、何か凸凹?してますが、強度は問題ありません。それよりも
←ダンパーが凹、かなり沈んでます。
これは上向きに設置された構造的な問題でしょう。
もしJBLの30cmウーファーが上向きに設置されていたら、1年もしないうちに激しく沈み込み、ダメになるはずです。
ダンパーはいつもの補強よりも若干硬めに、音に影響が出ないよう、具合を見ながら補強する事にします。
こういう所にビクターのスパイダーサスペンションを採用すれば、きっと完璧なんでしょうね。
●コーンの汚れを落とす前に、まずはコーンの素材をチェックします。
裏側から見ると、どうやら素材は紙のようです。
もしプラスチックなら、水でじゃぶじゃぶできるのですが、紙の場合はそうもいきません。
コーンにダメージを与えないよう、慎重な作業が要求されます。
●まずはブラシを使い、丁寧に丁寧に汚れを落とします。
やった事はありませんが、遺跡の発掘的な感じでしょうか。
すると何やら塗装跡が出てきました。
どうやら紙コーンの表面がコーティングされてるようです。
●そして数時間後
ようやくクリーニングできました。
コーンに付いたうっすらとした線がわかるでしょうか。
表面がやや厚めにコーティングされた感じです。
だから途中で少量の水を使い、綺麗にする事ができました。
センターキャップは布で、こちらもやや固められています。
 もしこれがビクターやタンノイのようなコーンだったら・・・
想像したくないですが、困難を極めそうですね。
この後ダンパーを修理するため、いったんばらばらにします。
●そしてまた組みなおしました。
コーンの表面は薄くコーティングを施し、フレームの上部は塗装しました。
埃(ほこり)対策の為ですが、錆止めの効果もあります。

こちらの方が線、塗り跡がはっきりしてますよね。
円を描くよう、ダイナミックに手(筆)塗りされてます。
●最後にエッジ取り付けて完成!
元々はウレタンエッジのようでしたが、今回はゴムエッジに変更しました。
理由は「
埃(ほこり) 」です。
何年後かには、少なからずまた埃がたまります。
もしウレタンエッジだったら、掃除するのも躊躇しそうですよね。でもゴムエッジの場合、気軽にサさっと拭けまずし、精神的にも良いはずです。
それらがゴムエッジにした一番の理由になります。
そしてこのゴムエッジは、ヤフオクで見かける安物ではなく、ブチル系の高級品です。だから音質はもちろん、耐久性もウレタンより良いと思われます。
5年後10年後に、
 「
ああ、ヴァリアスクラフトに頼んで良かったな
そんな風に思われるよう、色々と努力しています。
●さて、最後はキャビネットの修復にとりかかります。
←木目部は塗料を全て落とし、背面は塗装しました。
1枚目の写真を見るとわかりますが、特に天板は炭?と思えるほど、まっ黒からの仕上がりです。
面積はそれほどでもないのですが、施工面がやたらと多く、通常は4面ですが、これは1台16面ほどの作業です。だから時間もかかり大変でした。
他に底面に傷が多かったのと、何箇所かあった打痕もほぼ修復済みです。
●左側のダイナミックな木目が底の部分です。
吊り下げて使用する事を前提にしていたのか?底面が一番良い木目が使われています
下から見上げたときの画まで考えてるとは、入れ込み方が素敵です。
←網は水洗いで、徹底的に汚れを落としました。
 他にはウーファー周りとツィーター周りは接着剤で補強後、さらに塗装を施してあります。
もう手の入れる所はありません。耐久性も抜群でしょう。
●木目はクリアOILで仕上げたあと(4工程)、
オーナー様のご希望で艶消仕上げにしました。
この艶消しは完全な0艶消しではなく、超微妙に配合した0.5〜1部艶ほどの「
こだわりの艶消し 」です。

普通の艶消しだとやや白ボケしますが、これはそれも少なく、より木目がはっきりと現れます。
私の作品は他社様より綺麗だとよく褒められますが、すべては努力の結果なんです。
そんなこだわりで完成した箱にユニットを装着していきます。
●網も再塗装しました。
弾力のある網に合わせて、塗料も弾力のあるゴム系を使いました。
ただこの網は非常に目が細かいので、目詰まりしないよう薄めて調整しました。
そして全てのパーツを組み上げ
祝!完成!
●どうでしょう。隣に新品を並べる事ができないのが残念ですが、たぶん新品同様に復活したと思います。
めちゃくゃ大変でした。
正直料金とか気になりますよね。たぶん他業者様なら10万〜20万円くらいは平気で言われそうですが、
私は全て材料費(エッジや端子など1万2千円)込みの3万円でやらせて頂きました。
ただしこれはお世話になってるオーナー様価格ですので、通常は倍ほどの見積もりになります。

大変だったので宣伝させていただきましたが(^^;
エージングもそこそこに、さっそく音出し
まずは一言
 「
すごい広がりだなー

 設置はいつもと同じ、普通の2wayを置くように並べて正面聴きです。
斜め45度のツィーターのせいか、柔らかい高域がえらい横に広がってきます。
 中域・ボーカルは、通常のスピーカーは正面から聞こえますが、
こちらはスピーカーの上、約50cm辺りに音像を感じまた。
まるでスピーカーの上に人が立っている、と言った感じでしょうか。
 低域は密閉ですが、ヨーロピアントーンのような重量感があり、
クリアーで解像度が高く、物足りなさはまったくありません。
低域は無指向性なんだなという事が、改めて良くわかりました。

全体のバランスも良く、ボーカルの質感もクリアーで自然に聞こえます。
はっきり言って「
すごいなこれ、素晴らしい音だな! 」と思えるほどのスピーカーでした。

背面の切り替え式は、正面を標準とすると、左は能率がぐっと落ち、右は逆に高域が強くなります。
切り替えによる差がしっかりしてるので、どんな置き方でも対応してくれそうに感じました。


最後に。
 いや〜、最初は正直、状態を見て不安だらけでしたが
音を聴いた瞬間、その労力も一気に吹き飛ぶほどでした。
お金をかけてレストアするだけの価値が十分にあります。
日本でこのスピーカーを所有されてる方は、いった何人いるのか?気になります。

 最初に見たときは、ふっるいなー、70年代?なんて思えるほどの外観でしたが、
内部構造を見ていくと、使われている部品等々、たぶん80年代頃の製品だと思われます。
そして細かい作り込みなど、アメリカもすごい物を作るなーと感心するほどでした。
もし今同じ物を作ろうとしたら、かなり高額になるでしょう。

 今回のALLISON FOUR、5年後10年後と先の事を見据えてレストアしたので、
きっと何年も良い音を奏でてくれるはずです。

 
レア度満点ALLISON FOUR、おどろきの連続に感服、素晴らしいスピーカーでした。

再最後に。
 貴重なスピーカーをレストア依頼してくださったオーナー様
  大変良い経験ができたこと、心から感謝しております。ありがとうございますm(_ _)m
   ウーファーの網は1年に一回くらい、大掃除の時にでも外してハケでささっとやってください。

次回、只今4311の新パーツ作っているのですが、失敗の連続なんです(TT)
    なので何を出すかは未定ですが、どうぞお楽しみにお待ちくださいませ♪

ALLISON FOUR 1980年代頃 
メーカー解説:
方式 2ウェイ・3スピーカー・密閉方式
使用ユニット 高域用:2.5cmドーム型 ・低域用:20cmコーン型
再生周波数帯域 55Hz〜20000Hz(推定)
インピーダンス 6Ω(実測値)
出力音圧 87dB/W/m(推定)
クロスオーバー周波数 2KHzくらい(推定)+能率可変
外形寸法 幅×高さ×奥行mm 約L
重量 kg


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