●今回はわりと珍しい、イギリスのメーカーSPENDOR(スペンドール)、 SP-2の紹介です。
イギリス製スピーカーと言えば、1970年代にBBC(イギリス版HNK)のモニタースピーカーとして、 U
各社から同じ企画で発売された小型スピーカー「 LS3/5a 」が有名です。
そんなイギリスメーカーは、KEF、チャートウェル、ロジャース、スペンドー ル、ハーベスなどがあります。 U
日本で言うところのダイヤトーン、DENON、ONKYO、SONY、テクニクスと言ったところでしょうか。 U
日本製のどれもが似た傾向であるよう、英国製もまた、それぞれは同様の傾向で、 U
JBLに代表されるアメリカ製同様、お国柄やお人柄が色濃く出ているのも特徴です。 U
アメリカ製とイギリス製は両極端な性格ですが、日本製はその中間的存在。 U
木造や畳、石・レンガなど、住宅の違いもスピーカーの音色に影響しており、 U
石造りの多いヨーロピアン系は「 響かせない 」傾向が多いです。 U
そんなイギリス製ですが、SP2はいったいどんな音色やら、さっそくメンテナンスにいきましょう。 U |
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●概観。
20cmウーファー搭載のSP2、サイズはJBLの4301を少し細くしたようなスタイリングです。
ツキ板はチークで、シンプルな英国家具の雰囲気が出ています。 |
●背面。
ターミナルもヨーローピアンに多いシンプルなタイプ。
バナナも使えます。 |
●わりと大きいのでそーっと寝かせます。
背面のターミナルがけっこう凸ってるので、負担がかからぬよう厚めのスポンジをひきました。 |
●ユニットのネジはすべて六角でミリネジです。
ツィーター、ウーファーともに共通でした。 |
●ツィーターを外します。
ケーブルがハンダ付けされてますね。
18dB/oct の逆相接続のようです。
本体はプラケースでカバーされてるので、
まずはこのカバー(接着)を剥がします。 |
●横から見ると。
←フレームが歪んでますね。
フレームや基盤が曲がっているのは、イギリス製品に多い、悪い特徴の一つなんです。
締め付けパワーのかけすぎでしょうか。
写真ではお見せできませんが、
ツィーターの透明感が一際良くなる
ある「 独特の施工 」をしました。
(最後に説明します) |
●ウーファーを外します。
箱の内部は、分厚いスポンジ(黄色)で覆われてました。
木→制振材→6cm厚のスポンジといった
綿密な作りです。 |
●乳白色でやや透明がかったポリマーコーンが特徴的な、20cmウーファー。
箱に装着したまま、正面からライトをあてて撮ってみました。
若干透けてますね。
そんなコーンの表面には、鳴き防止のためか、ボンドのようなものが塗ってあり、若干べたつきます。
新品時から曇っていたのか?クリアーなのかわかりませんが、へたにいじるとよけい汚くなる恐れがある、難しい素材です。そんなところも、綿密なイギリス製品の特徴です。
←マグネットには少し白錆が出てますね。
マグネットサイズはそれほど大きくはありませんが、 |
●手に持つと想像以上にズッシリきます。
これはフレームが頑丈で分厚い鉄製だからです。
このフレーム
大音量でもビクともしない”安心感 ”が伝わってくるほどです。
ダンパーもエッジ(ゴム)も割りと硬め、良い状態を維持しています。 |
●メイドイン・イングランド
色の違う2種類のボンドは手塗りですかね?
意味が知りたいところです。
ウーファーのコイルとヨークは綺麗だたったので分解はせず
錆止め処理と、フレーム表面を塗装、
エッジの耐久性を伸ばすための施工をしました。 |
●お次はネットワーク。
ユニットを外すとこのように見える状態ですが、
これもパッと見、イギリス製品の特徴そのものですね。 |
●ネジ止めで簡単に外れますが、ナットはインチサイズでした。
ターミナル→基盤直結の作りです。 |
●ネットワークを外しました。
ロジャースほど部品点数は多くありませんが、
それでも18dB/octで、きっちり仕事してる感じがします。
コンデンサーは正常値でしたので、あえて換える必要性は感じませんでした。 |
●これも横からみると、ご覧のよう変形してました。
これもイギリス製品の悪い特徴の一つ。
イギリス製品はネットワークの部品点数が多いので、大きめの基盤が採用されてます。
基盤なので背面は接触させない、もしくはスポンジなどの絶縁体をひくなどの処理がされてますが、
大きさや構造が仇となり、ご覧のよう変形してる物が多いです。
これは真っすぐに修正すると、逆に変な力がかかってしまい基盤を痛める、破損の原因になりかねます。
音出しの振動程度では問題ありませんが、配送による振動で割れてるものを多く見てきました。
だからこれの場合、この曲がったままを維持、このまま動かないよう補強してやるのがベストです。 |
●さて、ネットワークをブラッシュアップしていきます。
絶えず振動に晒されるスピーカーにおいては振動に強い選択をするのがベスト。
音圧でも起電の後遺(過渡特性の悪化)を生む為、物理の原理がストレートに反映出来る単純化を図りたい。
と、オーナー様からの要望がありましたので、
ケーブルは圧着及びハンダ付けで処理します。
ファストン端子は容易に接続させるツールであり、実際は全て圧着してやるのが、私も理想だと思います。 |
●基盤のハンダを全てやり直しました。
これでより安定した電流が流れるはずです。
純正はこのままの装着になるので、基盤がスポンジと木材に接触します。 |
●だから接触しないよう、ウレタンスポンジを貼りました。
絶縁はもちろん、振動対策も兼ねており、
基盤に割れそうな力がかかっても、このスポンジのおかげで防ぐことができます。
デリケートな部分にも全て手を入れるのが
ヴァリアスクラフトであり、それが高音質へと結果として表れてくれます。
ケーブルは書くと長くなりますが、一番ベストな自作品です。
チューニングではよく銀がでてきますが、
銀は諸刃の剣でして、
使えば良くなるってもんじゃありません。 |
●さて、いよいよ大詰め、箱の仕上げに入ります。
←黒いのが貼ってありますよね。
これは厚さ5mmほど、一見スポンジのような素材ですが、
かっちかちに硬い「 制振材 」です。
これもイギリス製品によくある特徴で、石造りの家の影響か
極力「 箱を響かせない 」方向性のようです。
だからイギリス製の低音は、シャープでタイト、切れのいい音が特徴となってあらわれてます。 |
●何ヶ所か傷があったので補修しました。
上の写真(黒い張物の上部分)で少し見えますが、
箱にする前、先にツキ板を木材に張ってからカット、
その後組み上げるという施工なので、
箱の裏側もツキ板が張ってある部分が、所々見えます。
そしてイギリス製品は「 ツキ板が薄い 」のも特徴で、
JBLと同じノリでサンダーをかけると、あっという間に木目が消えてしまいます。
だからイギリス製品の補修は難しく、神経使う作業が多いんです。 |
●箱が仕上がりました。
やや艶有りなので、写真では見え難いですが、
天板やサイドも、木目が綺麗に出ています。 |
●さて、これは背面のコーションラベルですが、ビニールということもあり、ヘロヘロして高級感がありません。
そこで一度剥がします。
はがれにくくなるよう、そこだけ背面の黒シートが切られてました。 |
●その木材の破片が凸凹しており、フラットな板に張っても凸凹は直りません。
なのでいちど破片を綺麗に取り除きます(右が取り除き後)。
薄いビニールなので、破かないよう慎重に作業します。
JBLのプレートもこんな感じが多いです。 |
●木片を取ったあと、アクリルに貼り付けます。
その後、極低温でアイロンをかけます。
それで凸凹や折れシワが少し直りますが、完全なフラットにはなってくれません。 |
●そして本体へ貼ります。
いかがでしょう。
だいぶ雰囲気変わりますよね。
私はこういう細かいところが大事だと思っているので、隅々まで念入りに手を加えます。
雰囲気そのものに影響がでますしね。
コーションプレートとなったラベルの下には
「 チューンデッド バイ ヴァリアスクラフト 」黒Ver.
を貼りました。
チューンドバイではなくチューンデッドにしたのは、
単なる響き、聞こえ方の問題なんです。
チューンドバイにすると何か、
バイバイクラフトに聞こえてしまうから(^^;
|
●箱が仕上がったので部品を取り付けていきます。
矢印部の黒、制振材が背面にも貼ってあるのが見て取れます。
こんなしっかりした作り込みは、見習う面であり
「 日本製の石杖 」になってる気もします。
ネジはターミナルと基盤を繋ぐ要ですから、そこも念入りに処理します。
JBLのプッシュ式ターミナルも、要は「 ネジ 」なんです。 |
●ケーブルをユニットに取り付けます。 |
●最初はぐるぐる巻きの圧着にしようと思ったのですが、
うまい具合でリード線がきてるので、
そこに「 直結 」させました。
だから大事をとり、外れぬようハンダ付けにしました。
端子と線による異種金属(ダイオード効果)効果も回避出来ると、オーナー様に教えていただきました。 |
●そしてツィーターも取り付け |
●祝!完成! |
●いかがでしょう。
見方によってはウーファーがうすら汚れて見えますが、
そういう仕様です。 |
●細かい所まで、全て手を入れました。 |
●まずは私の元へ届いた状態、ノーメンテでのファーストインプレッション
まずは一言 U
「 深いな 」 U
パッと聴いた瞬間はややドンシャリ型にも聞こえるが、中域・ボーカルに照準を絞り U
じっくり聴いてみると、クロス付近の分解能力が高く、彫りの深さが伺えました。 U
深みのあるボーカルがふわっと広がってきたときは、ぐうの音もでないほどです。 U
このサイズとしては少しタイトに感じる低域だが、ぶよぶよさせないのがイギリス流です。 U
短所は若干だが高域のシャリ感が強いこと。 U
うるさくはないが、ソースによっては女性ボーカルが若干ハスキーです。 U
ただキャビネットの吸音材やアンプでも変わりそうなほどの微小な領域なので、 U
このままでもほとんど気になりません。 U
言葉にするのが難しいが、緻密で計算されつくしたかのような音作りは、 U
ヨーロッパの伝統的技法が十分に活かされてる気さえするほどです。 U
そんな完成された音を目の当たりにすると「 ブラッシュアップできるのか 」 U
とつい弱気になってしまいますが、そこはやはり機械。 U
手を入れれば入れるほど答えてくれました。 U
それと少し説明したツィーターですが、 U
過去デンマーク製ユニットをさんざん分解していき、ある共通点を見つけました。 U
物にもよりますが、それをやると「 1、2割ほど透明感が増します 」 U
結論から言うと U
「 あれ?ツィーター換えた? 」って、つい思えてしまうほどのレベルになりました。 U
それも今まで私が経験してきた賜物です。 U
そんなレストアやケーブル、接続方法を徹底的に見直した結果 U
「 透明感が増した 」より「 繊細で綺麗な音色 」が出るようになりました。 U
よくある”お客様の声 ”を書くと、うそっぽくなるので書いてませんが U
これらすべてのテクニックを駆使し、お喜びいただいております。 U
SP2のオーナー様にも、きっとご満足いただけると信じております。 U
最後に。 U
ネットワークを勉強したいなら、イギリス製スピーカーをいじりたおせ! U
経験すればするほど、言葉には表せない「 極み 」が見えてくるはずです。 U
だんだん変な言い回しになってきましたが(^^; U
イギリス製スピーカーは「 良い教科書 」になるということです。 U
今回のスペンドールはいかがでしたか。 U
スペンドールは過去2台ほど扱い、過去の写真をほじくり返しましたが U
当時は経験も不足しており、メンテのみで写真も少ないのでHPには載せませんでした。 U
ただヨーロピアン系に共通する部分は多く、音質も随所に表れていました。 U
だからヨーロピアンを聴いた事がない人は、まずはイギリス製品をおススメします。 U
ただ中古でも値段が高いのがネックですよね。 U
今回はイギリスイギリスと連発しましたが U
スペンドールSP2、ハイレベルなスピーカーでした。 U
次回、ダイヤトーンファンのみなさまm(_ _)mすみません。 U
ダイヤはまだ先でJBLを先に仕上げております。 U
現在も納期が延び延びですが、愛用してるスピーカーがあるのなら U
「 ぜひ一度ヴァリアスクラフトに預けてみませんか? 」 U
きっと違う一面が見えてくるはずです。 U
ただ激安施工のサービス期間は終了したので、ご了承くださいませ。 U
次回もスペシャルな一品です。お楽しみに♪ U
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SPENDOR(スペンドール・イギリス) SP-2 1989年 1台\110,000円 |
●メーカー解説:SP-1の性能をミドルサイズのエンクロージャーで実現すべく開発されたスピーカーシステム。 U
低域にはホモポリマー・ポリプロピレン・20cmコーン。 U
高域には特別仕様の1.9cmソフトドーム型。 U
ネットワーク部にはグラスファイバー・プリント基板など、厳選したパーツを採用。 U
エンクロージャーの前面には高密度のメダイト板を使用、ユニットをしっかりと支持しています。 U
また、内部にはスペンドール独自の美チュー面の内貼りと吸音材を施して定在波を殺し、 U
エンクロージャーの不要な共振を抑える設計としています。外観はチーク仕上げ。 中略 U |
方式 |
2ウェイ・2スピーカー・バスレフ方式 |
使用ユニット |
高域用:1.9cmドーム型 ・低域用:20cmコーン型 |
再生周波数帯域 |
60Hz〜20000Hz |
インピーダンス |
8Ω |
出力音圧 |
88dB/W/m |
クロスオーバー周波数 |
3.0KHz |
外形寸法 |
幅263×高さ502×奥行280mm 約L |
重量 |
12.3kg |
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