紹介するタイミングがずれてしまった、この SC-E232
DENONは低域の押し出しが強く、こもって聞こえるスピーカーが多い。
そんな中、一際素晴らしいバランスで鳴ってくれたのが、SC-E535 このE232の兄貴分だ。
そのE535より若干小さく、箱とウーファーサイズ以外、ほぼ共有されている感がある。
サイズ、特にウーファーが17cm(E535)と12cmという、見ただけでも違いが分かるほど差があるわけだが、
それが音にどれだけ影響するのか?非常に楽しみである。
写真ではわかりずらい外観だが、これ、ため息がでるほど汚い(^^;
なのでクリーニングを重点的にやらねばなりませんが、とりあえずメンテナンスに入りましょう。


DENON SC-E232 1992年 \60,000 (ペア)
メーカー解説:豊かな音場再生と緻密な表現力の実現を図った、ヨーロピアンテイストのコンパクトスピーカーシステム。
方式 2ウェイ・2スピーカー・バスレフ方式・防磁設計(EIAJ)
使用ユニット 低域用:12cmコーン型 ・高域用:2.5cmドーム型
再生周波数帯域 38Hz〜45kHz
インピーダンス
出力音圧 89dB/W/m
クロスオーバー周波数 3KHz
外形寸法 幅202×高さ344×奥行255mm
重量 6.2kg
前回メンテしたスピーカーと、このように並べて撮る事も多い。
左は真新しいF107。このシリーズ中サイズは大きめであるが、時代背景の違いか
コンパクトと言われていたE232は、一見して分かるよう一回りほど大きい。

ONKYOは硬めのゴムで、そのほとんどがボロボロと風化しているが、
DENONのゴムエッジは、比較的薄めで柔らかい物が多い。
多少ヘタリ感は見られるが、20年近く経つのに破れもなく現役という所は立派な事だと思う。

さて、動作OKなのでインプレに入ります。
まずは一言
「 響きが強めだが、何かこう、豊かな音楽性を感じますね〜 」

高域
少し硬めだが透明感があり、うるさくはない。レンジはわりと広め。
中域とかぶってる感が漂うが、それで輪郭を作りあげてる気もした。

中域
ウーファーからクリアーな音が出ているのか?ツィーターとのかぶりが影響し、
比較的フラット感のあるクリアー質。だから定位はわりと良い。
だが、箱が結構響いてくる。
それの影響でソースによっては、凸傾向だったり輪郭も甘く感じる時もある。
なんとも微妙なさじ加減。

低域
ユニットから出る音はサイズ同等に感じたが、
やはり箱で鳴るような響きが強く、ソースによってはブォーンと伸び広がる。
ブヨブヨまではいかないが、キレのあるF107と比べてしまうと、不鮮明に感じる時もある。

全体音
バランスはわりと良く変な癖も無い。どちらかと言うとクリアー質傾向だが、
箱で鳴らすタイプなので、ソースによっては中域が凸だったり凹だったりと、表現が難しい。
地を這うように伸びる低音が出る時などは、中域が凸で全体が甘く感じるし、逆もある。
臨場感が豊富で、場の雰囲気を重要視するような鳴り方は
バックロードに似てるのかな?
そんな印象も頭をよぎりました。
箱が響くタイプは甘いというか、音像がブレる、鈍いという印象もあるが、
たぶんこれ、ウーファーが優秀だから、芯の通ったバランスが保たれている気がする。
ただE535は、もっとこぅユニットから出る低域がしっかりしてたので、一枚も二枚も上手の印象が残ってます。
こういう鳴り方のスピーカーは、とにかく表現の仕方が難しいですね。

今回DENONの新型と直で聴き比べできた訳だが、箱を積極的に利用した音作りには
古さを感じるところもある。
低域に関してF107は”ズバッ ”とキレる音なので、
E232はよけい伸びるようにも感じ、解像度が”甘い ”とも感じた。
中・高域、ボーカルものに関しては、癖のない「 E232 」が断然良く聞こえる。
豊かで膨らむ音の中にも、息遣いを感じられるほど繊細さがあるからだ。

F107が寒色系、クールな音色だとすると
E232は暖色系。音楽性豊かな、温もりが感じられる。

直で聴き比べをしたので解る事も多々あり、E232は非の打ちどころがないほどだが、
もう少し低域に”締まり ”いわゆる箱の響きを抑えても、いいように感じるが、悩みどころです。

まずはユニットのゴム枠を外しますが、比較的簡単に剥がれました。
ウーファーを留めるネジが見えますね。
ユニットを外します。
中は予想通りほぼ、がらんどうでした。吸音材はニードルフェルトで、箱の上部、TW周りに少々。
フロントバッフルはMDFらしいが、その他はパーチクルボード。ポート周波数は約83Hz
比較的シンプルなネットワーク。詳細は
TWが約 3.5K カット 12dB/oct
WFが約  3K カット 6dB/oct
ウーファーが6dB/octというのはDENON製品は多い。
ユニットによりけりだが、6dB/octにすると上に伸びるので、中域の輪郭がシャープになる。
その分低域が弱くなるわけだが、それを箱の響きで補ってる、といったところ。
見た目が特徴的なこのウーファー、特にコーンやセンター部の作り込みが凝っている。
DENONでは、E232とE535のみに採用されているユニット。
ユニットを外した時、ちょっとドキッとしたのだがこれ”WHARFEDALE(ワーフェデール) ”のステッカーが貼ってある。
このように特徴的なユニットは日本製とは考えにくく、この頃のDENONはデンマーク製のユニットなど
外製が多いので、ワーフェデールに間違いないでしょう。
ワーフェデールはイギリス製で、あまりピンとこない名前だが、桁違いの値段で販売してるスピーカーなどもある。
外製だから良いというのではなく、デンマークのPeerlessしかり
ユニット単発で聴いた結果、実力があるのは認めざるおえません。
私の発想だが、E535のウーファーとONKYOのD-200、もしくはダイヤトーン200Z系のツィーターを合わせ、
しっかり設計した箱とネットワークを組み合わせる。
そうすれば、B&W805や高級外製を軽く凌駕する。
そんな実力を持つスピーカーができる!なんて大いに思います。
最近E535は中々入手できないが、部品が揃えばチャレンジしてみたいですね。

さてこのウーファー、エッジがゴムで柔らかく、痛みは無いがかなり薄い物で、この先大丈夫か?と不安も覚えた。
なので右写真のように、裏側を液体ゴムで補強しました。
これが功を奏したのかダンピングが良くなり、箱鳴りで甘い音にキレが生まれ、解像度が上がった気がします。
箱の補修に入ります。↑底の角部、1mmに満たない隙間だが気になったので補修しました。
その他、目立つような大きな傷は無いが、とにかく汚かったので一気にペーパーがけしました(右写真)
フロントバッフルは元々塗装だが、一般的な塗料とは違い、ゴム系のような比較的柔らかめの塗料。
その面には、染みが沢山ついていた。
染みを取るのにシンナーで拭きとるわけだが、ムラが出るので全体を一気に仕上げます。
けっこう難しく多少ムラが出たが、一皮剥けたように奇麗になりました。
底にはコルクシートを貼ります。
ユニットをクリーニング、接点を全て磨きます。右写真、端子部にブチルゴムが貼られており、憎い演出ですね^^
今回箱をチューニングします。
まず上下に補強兼ねた2本の棒を設置。下はウーファーにしっかり密着するように接着後、さらにブチルゴムを貼りました。
自作する人なら容易に想像できると思うが、このような位置で設置された棒は、響きに対しかなり効果があります。
F107でも感じたが、響き加減がいい塩梅で、ウェルバランスと言えるのではないでしょうか。
特にウーファーを”密着させる ”というところがポイントです。
ネットワークに振動は禁物。それが目的でその部分、グラスウールで覆ってやります。
元々箱の響きが強く感じる音だが
「 ウーファーを上まで伸ばした音 」と
「 若干能率が高めに感じたツィーター 」で、甘い全体像を適度な加減でシャープにしている。
そんな理由で、ネットワークをいじる必要性は感じられませんでした。
ウーファーを装着後、カバーを接着します。
サランネットを補修します。
大きな破れは無かったが、染みが付いており洗ったが落ちませんでした。だから布を上貼りします。
この写真が実際見る色味にかなり近いです。
左が純正。
これは純正ネットですが、なんだか色味がぜんぜん違いますよね(^^; プレートを丁寧に外します。
貼り終わり。黒ではなく”濃紺 ”です。プレートのハゲはマジックで塗りました。
完成!!!
かなり奇麗になりました。
ネットの濃紺は私的なこだわりで、このダイナミックな木目はJBLを髣髴させますが、
より一層品格が備わったような気がします。
若干だが高域が吸われ、よりバランスが良くなったようにも感じました。
こういうダイナミックな木目はあまり見かけませんが、中々高級感があります。
今回は箱のチューニングのみ、ネットワークはいじりませんでした。
上のバランスイメージで感じられるよう、元はふわっとしすぎる甘めの音が、中域に被り気味でしたが、
適度な補正でだいぶ引き締まり、音が落ち着きました。
ウーファーエッジを補強した事で、ダンピングがより効くようになり、最初よりだいぶ”キレ ”も増します。
そんなとこも重なり、全体音はベールが一枚剥がれたような音色に生まれ変わりました。

最初に音を聴いた時、表現力が豊かすぎるというか、ソースによってかなり表情を変えてくるこのE232。
そんな音に戸惑い、いいのか悪いのかさえ解らなくさせられるような一面もありました。
ツィーターの能率を下げようか?下げまいか?と悩んだほどです。

基本的に箱鳴り音は好みじゃないですが、箱鳴りにも様々な鳴り方があるわけで、
これは不快じゃないというか、それほどいやらしくありません。
良い書き方をすると
「 豊かに、響きわたる音場を演出できる 」
「 小型とは思えない、サイズを超えたスケール感がある 」
など、ちょっと評論家っぽい書き方だが、そんな印象になる。

特出できる点はやはり、ユニットが優秀、特にウーファーがいいですね。
1992年
私 Best MOTORing というビデオが好きで、昔より見ているのですが、
この時代、NSX、GT-R、スープラ、RX-7など国産勢に素晴しいスポーツカーが生まれているのですが、
外国勢にはフェラーリ、ポルシェといった弩級の怪物がいたわけで、
外車はやはり凄い!という印象が強いものでした。

外国製品を上手に使い仕上げたスピーカーというのは、こういう時代背景の流れがあるのかもしれませんね。
今の中国製ユニットとかは、意味合いが全く違います。
この時代、DENONは作り込みうんぬんの説明ではなく”このメーカーのユニットを使ってる! ”を
全面に押し出し、そこだけ強調した宣伝をしてもいいように感じました。
それだけ、ユニットのポテンシャルが高いという事です。
いずれにせよ
きちんとしたメンテナンス、ツボを抑えたチューニングをする事も、
好結果を得られる要因だと感じております。

中域がナチュラルなので、比較的どんなジャンルもこなせますが、
ボーカルものはほぼOK
後はソースにより表現力が変わるので、照準を絞るのが難しいですが
JAZZも、わりといけそうに感じます。
中域のフィーリングはクラシックに合っていると思うが、響く低域が微妙に思います。


最後に。
今回は20年ほどひらきのある製品比較もできましたが、
新しいものは解像度も良く、フレッシュな新入生という感じ、
古いものは表現力に余裕があるベテラン講師、そんな印象を受けました。
それぞれに良い点、悪い点が見られ、新しいから古いからとかは、関係ないように感じますが、
トータル的に見ると古い方が数歩、上を行ってるような気がします。
残念なのはE535とE232、直で比較できなかった事ですね。
このE232、時代の流れは感じるものの
”古き良き時代の産物 ”そんな言葉があてはまるような、音楽性豊かなスピーカーでした。


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