●パート3最後の作品は、KENWOOD。 上位機種、本格スピーカーの登場です。
生粋の日本メーカーで、無線やカーオーディオなど、様々な商品を出しているメーカー。
そんなケンウッドですが、ピュアオーディオ・単品スピーカーというジャンルでは、
あまりピンッとくる商品がありません。
音よりも「 デザイン 」に拘っている。そんなイメージが、私の中ではあります。
このLSF-777、単品かコンポ用だったのか解りませんが、中型スピーカーとしては、いいお値段で、
デザインも、かなり凝ってます。
果たして、値段に見合うだけの’音 ’が出るのか?
さっそくメンテナンスに入りましょう。
KENWOOD LSF-777 1997年 2台 90000円 |
●メーカー解説:点音源思想を具体化し、リファレンススピーカーとして開発されたスピーカーシステム。 |
方式 |
2ウェイ・2スピーカー・バスレフ方式・防磁設計(EIAJ) |
使用ユニット |
低域用:15cmコーン型 ・高域用:2.8cmドーム型 |
再生周波数帯域 |
45Hz〜30kHz |
インピーダンス |
6Ω |
出力音圧 |
84dB/W/m |
クロスオーバー周波数 |
2.2KHz |
外形寸法 |
幅216×高さ352×奥行326mm |
重量 |
8.7kg |
|
|
|
|
●ツィーターは凸凹だが、ウーファーはゴムエッジで問題なし。
さっそくインプレに入ります。
まずは一言
「 おっ、バランスいいですねー 」「 特に低域の出方が最高かも 」
高域
うるさくはないが、少し硬く、繊細さにかける。
J-POP50曲中、3、4曲に’違和感 ’を感じた。
中域
ボーカルの凸凹が中間的存在。マイルドでクリアー質。ボーカルの輪郭はシャープで、定位は悪くないが、
浮上感と点音源は微妙なところ。
低域
背面ポートということもあり、前面からの押し出しは弱いが、箱の中から、深くて重い音がけっこう出てくる。
KENWOODは’軽い音 ’のイメージが強いが、これは中々でキレもいいし、解像度も高い。
いいんじゃないでしょうか。
全体音
バランスは悪くなく、良いほうだと思う。
若干箱を響かせてる方向で(箱鳴り)、ソースによってはブォーンとした、繋がりが悪く感じる低域が、たまに出る。
どちらかというと、外国製品のような味付けを、真似ているようにも感じた。
最初はちょっとドンシャリ気味で、ボーカルも凹んでいたので、B&Wの805 に、似た傾向だった。
しばらく鳴らしていると、ウーファーの力が出てきたようで、中域がフラットになり「 潤い 」が出るようになる。
805はカラカラに乾いた音。この潤いが805との’差 ’でもあり、ボーカルものが、気持よく聴ける傾向に変わる。
全体はナチュラルでマイルドな仕上がりだが、とにかく低域の出方は、
一般のスピーカーでは出せないような不思議な感じで、高級志向の特徴も伝わってくる。
ただし、ソースにもよるが若干、高域に変な癖がある。
まずはドーム部を、きちんと直し、しっかりしたメンテナンスをして、
癖をできるだけマイルドな方向へと、リセッティングしたいと思います。 |
|
|
|
●このバッフルは’アルミ ’だが、外れるのか?
とりあえずゴムを外します。 |
|
●ユニットを止めるネジが出てきました。
ウーファー枠のゴムだが、かなり強固に接着されてました。
バッフルはアルミを塗装した物で、ちょっとした傷でも、下地が顔を出すので、あて布などをしながら慎重に作業します。 |
|
|
|
●ウーファーが外れました。ツィータのネジは赤丸あたりです。
ここでの注意点だが、’ネジが硬い ’ので、普通のドライバーで外すには困難を伴う場合がある。
手回しで厳しいネジが何個かあり、高トルクの電動ドライバーを使いました。T型レンチのようなドライバーでも、いけるかもしれません。 |
|
●ツィーターのネジを外すさい、ポートがじゃまなので、先に外す必要があります。 |
|
|
|
●ポートはネジ留めで、簡単に外せます。
メーカー製スピーカーは修理時を想定し、ユニットを外せる仕組みになってますが、これもその一つ。
それにしても、でかくて長いポートです。
ポート周波数は、約55Hz。 ポートを外すと、よりズンドコくる90Hzに変わる。
ポートを外して解ったが、背面板(MDF)はなんと’24mm ’でした。 |
|
|
|
●やっとツィーターが外れました。このネジも、とにかく’硬 ’かったです。
体育座りのような姿勢を取り、両足でFバッフルを蹴る形で抑え、両手でドライバーを腹に挿す感じで、力を入れて外しました。
フレキシブルなどがあったとしても、ネジ+部に圧がかからないと、簡単になめてしまう。
ウーファーもそうだが、+ネジではなく、’六角ボルト ’にして欲しいものです。
ちなみにケーブル交換のみでも、TWの端子が箱上部になり、クリアランスがない為、外す必要があります。
右写真、このバッフルだが、板(MDF)でサンドイッチ状に固定後、その板を本体に接着してあります。
なのでとうぜん外れません。 全ての作業は、このウーファーの’穴 ’に、手をつっこむ形でおこないます。
Fバッフルか背面板が外れれば、作業性が格段に上がるんですけどね。
手前の小さい合板はMDFにネジ留めされており、バッフルからのネジ留めに使われている。 ただしこのネジは保険のようなもので、無くてもバッフルが動くような事はない |
|
|
|
●箱の上部。吸音材に’綿 ’が使われています。
サイドの板は無垢ではなく、パーチクルボードでした。 |
|
●箱の下部。ここはグラスウール。
サイドに吸音材は無いので、少し響かせるセッティングです。 |
|
|
|
●ツィーター。詳細は書いて無いが、日本製のようです。
このセンターキャップ、DENONにも多く使われてる素材で、音の傾向も似ています。
中央部裏に何かダンプ剤が塗ってあり、そのダンプ剤が’硬化 ’し、キャップが変形するようです。
環境によりますが、自然にこんな形になってしまう素材ですね。 |
|
|
|
●片側は完璧に治ったが、これは微妙なところ(右写真)
ちと見ずらいと思うが、中央部が少し凹み、陥没したチOビのような・・・(笑
折目の癖が中々取れないので、折目が付いてしまった物は、完璧には治りませんね。
あとこの素材、外して直す場合、簡単に’伸びる ’ので、要注意!(DENON製品で経験済み)
裏にはコイルも接着してあり、エッジも兼ねてるので、ヘタに剥すと音が歪みます。安易に剥すのは’絶対 ’に止めましょう。 |
|
|
|
●ウーファー。これも日本製のようです。 特徴は’逆ドームコーン ’で、紙のような素材にコーティングが施してある。
昔のユニットに多く見られる、’コルゲーション(波型)’が薄っすら入ってます。
逆ドームは、中域の癖が出にくい形状ですね。 エッジはゴムで、厚みもあります。 |
|
|
|
●出ました!このフレーム。 ダイヤの15B以来となる、この強固なフレームは、とにかく’最高 ’
一体形成かどうかわ解らないが、’オールアルミ ’ マグネットサイズは一般的だが、フレームに厚みがあるので、重量もある。
こういうのがまさに’日本の傑作 ’と言える、あっぱれな品ではないでしょうか。
手に持った感触だが、はっきり言って、フォステクスのFE138ES-Rより、頑丈な感じが伝わってきます。
コストがかかりすぎるのか、このような製品は貴重ですよね。 |
|
|
|
●ウーファーを外した時、チラッと見え、かなり気になってたネットワーク。
手をつっこみ、ネジを外します。これもけっこう’金かけてますよ ’
詳細は、TWが約2.5KHzカットで、18dB/oct WFが約1.7KHzカットで、12dB/oct
メーカー文にある、クロスオーバー周波数付近で、同一電流が2つのユニットに流れる方式を用いたSS(Subtraction Series:減算形直列)ネットワークを採用。
というのは正直わからない。
メーカー製ネットワークは、コンデンサーを直列や並列にし、間や前後に抵抗を入れる、などの複雑な物も多い。
これは単純に、コンデンサーの癖を軽減させるだけではなく、耐久性や対入力など、実用で不具合が出にくいよう考慮されている。
当り前の事だが、こういうところが’自作 ’とは違った一面といえる。
これだけのネットワークを搭載したスピーカー、日本製で90年代、しかも後半辺りの時期を考えると、
中々無いのでは?と思える。それだけ、よく考えられ作られたネットワークです。
80年代製品には、ざらにありますけどね。 |
|
|
|
●裏はこんな感じ。 |
|
●TWには’ERO ’のコンデンサーが使われてました。 |
|
|
|
●単3電池との比較だが、とにかく大きい!ですよね。 |
|
●さっそくテストします。 |
|
|
|
●「もぅ少し高域をマイルドで、繊細な音にしたい!」 と言うのが、セッティング目標になります。
TWのEROだが、47μFとかなり大きく、定数よりも倍近い。
これは単純に、ピーキーな音を出さない、いわゆる’癖 ’を出にくくする為の措置と思われる。
ただ残念、もぅ一歩なんですよね。
18dB/octは、コンデンサー→コイル→コンデンサーとなる訳だが、後のコンデンサーだけ容量を大きくしてもダメなんですよね。
勝手にだが、開発者の気持は、すごく理解できます。
一番いいのは、コイルの容量を大きくする事。これが一番、’癖 ’には有効な措置です。
ただ、コイル変えると音色も変わりますので、私は入口のコンデンサーを’ERO ’にし、容量も増やしました。
同メーカー・同素材を使い、流れが自然になれ!が目的だが、気分的にもいいですよね。
基盤に穴をあけての取り付けなので、比較的簡単です。
|
|
|
|
●次に繊細さをより表現しやすいよう、ケーブルを交換します。
これはサーマックス製で、同軸ケーブルのようなシールド線。 シールドの網線は銀メッキ。
見ただけで(輝き)錫メッキとの違いがわかるでしょ。
内部は2芯で、約22AWGの銀メッキ・より線。 振動処置か、透明な線が2本入ってます。
耐火テストをしたので、左写真・先端が焦げてますが、間違いなく被覆は’テフロン ’です。
このケーブルもデットストックで、もぅ入手は困難でしょう。
高域が非常に’鮮明 ’な為、低域の迫力に欠けてしまう。
RCAインタコにと思っていたのだが、そんな理由で保留にしていました。
この線は2芯なので、このまま使用できるが、よりマイルドに低損失を考え、この一本を’片側 ’に使用にします。 |
|
|
|
●TWの元線をウーファー側に追加します。
元がOFCの2mmと、わりと太めな線ですが、2本で4mm。
1本より低損失になるのは当たり前ですが、捻るので、ノイズとジャダーにも有効でしょう。 |
|
●抵抗の足が長い為グラつきます。
ケーブル類同様、グルーでガチッと固めました。 |
|
●ハンダは銀入りを使用。ブチルや熱収縮チューブを使い、きっちり処理して完成! |
|
|
|
●さて、箱の仕上げに入ります。
中々奇麗な突き板ですが、天板と側面の模様が合ってないのが、残念。
写真で解るよう、ちょこちょこ小傷があります。 |
|
●これは底面で一番深い傷。
ビニールシートは埋めて、突き板は削って直しますが、
これくら深い場合は、埋めが必要になります。 |
|
|
|
●ペーパーで削ります。
写真のように白い粉が噴くのは、表面にクリアーが塗ってある証拠。 |
|
●塗装のみで処理した例です。
元よりは目立たないが、完璧に直すなら’埋め ’が必要。
ここは底なので、これでいいでしょう。 |
|
|
|
●このスピーカー全面、写真のような、ちょと深めの’溝 ’を設けた作りになっている。
この溝が微妙で、ボンドカスで凸凹だったり、ごみも溜まりやすい。 |
|
|
|
●黒にすると、かえって目立つような気がするので、本体色に近いステインを、流し込みました。
段ボール箱からスピーカーを取り出し、そのまま設置する。なんて感じなら、あまり気にならないかもしれないが、
間近で傷の修理をしていると、気になるもんです。 |
|
|
|
●薄い傷はペーパー処理したが、全体のクリア層が少し雑で、
’ざらざら ’しています。
こんなのが非常に気になるので、全体も処理します。 |
|
●ここは角で無垢材だと思うが、写真のようにざらざらしてるのが解るでしょ。
仕上げ工程が省かれているのか、ダメですね-。
もちろん直します。 |
|
|
|
●小傷の数は多かったが、表面は幸いに、深い傷はありませんでした。
ビニールシートでも突き板でも、色が合えばかなり奇麗に補修できます。
ただ突き板の場合、部分的に色を馴染ませるのが少々’困難 ’。 面全部を削り、全面をオイルで仕上げれば、
’色差 ’も無くなり良いのですが、元の色味が変わる事や、時間と手間がかかります。
なので私の場合、塗料を’調合 ’して、できるだけ近い色味で、部分的に補修しています。
近くでまじまじ見ると解りますが、パッと見は解らないレベルでしょう。
オイル仕上げなので、乾くのに3、4日必要。その間は先に進み、完全乾燥後’蜜蝋WAX ’で仕上げます。
ユニットもいつも同様、完全に仕上げてます。 ターミナルはくすみが酷かったので、半艶くらいですかね。 |
|
|
|
●ネットワークを取り付け |
|
●ユニットを取り付けます。 |
|
|
|
●ポート、ターミナルの取り付け。
ターミナルカバー、何気なく回した程度だが、一か所欠けてしまったので補修しました。 極まれにありますねヾ(^^; |
|
●最後にウーファーのカバーの取り付け。 写真のように’溝 ’があり、精度がとても高い。さすが日本製と言ったところか。 |
|
●完成!!!
なんか見れば見るほど、かっこよさが増してくる、この造形。
黒の部分が、革とか鏡面だったら、もっと高級感でるんでしょうね。 |
|
|
|
|
|
|
●カバー付けないほうがいいかな。 注意点!重心が前よりなので、持ち上げたりする時は、前を意識したほうがいいです。 |
|
●まずこのスピーカーだが、中々良い音の持ち主である。
故に、ケーブルの交換などライトチューンを施したくなる素体だが、他のスピーカーのように、簡単に交換できるしろものではない。
この手の作業に慣れていないなら、安易にいじる事はおススメしません。
じっくりエージング後、インプレに入ります。
バランスイメージで、何となくフィーリングを掴めると思うが、全体音のバランスは、ノーマルと変わってません。
違いは、高域の繊細さで、ケーブルが効いているのか、より繊細で密度の濃い音が出るようになりました。
中・低域の音質は変わってませんが、元の暗め印象から、鮮明度が増し、エネルギッシュで
躍動感が伝わりやすくなった気がします。
とくに低域は、文章で伝えるのが難しいが、何か奥が深い、すばらしい音に感じます。
Fバッフルが金属製のスピーカーは少なく、私の所有した中でも、ビクターSX-V1に続いての2台目。
コンクリートでできたスピーカーの音を、じっくり聴いた経験は無いが、そんな高剛性とは別物で、
金属と木材の組み合わせによる、しなやかさがありつつも剛性が高い。
ちょっと不思議さが感じる音。そんな傾向が、’良い音、良い低域 ’を感じられる要素かもしれません。
高域だが、例えばスーパーウーファーにスーパーツィーターを組み合わせた音。
中域が抜けていて、高域の’シャリシャリ ’感が目立つ。
そんな音は高級機にもありがちで、これもそれに近い音の出方でした。
好みでもあり悪くはないが、何か少し’不自然さ ’を感じた。
だから、ツィーターから出る音の帯域を増やし、シャリシャリ感を減らしたのが、チューニングバージョン。
音の傾向はほぼ同じ。違いも若干なので、聴き比べをしないと解らないレベルだが、
長時間聴いていても、聴き疲れしない音、そんな傾向がチューニングVer.では、感じられます。
中域・ボーカルは凸凹の中間位置。若干凹み寄り。
メーカー文で’点音源 ’を意識しているようですが、それに関しては、フルレンジや同軸ユニットには、
遠く及ばない、と言ったところです。
総評としてこのLSF-777は、
バッフル面が傾斜していたり、ゆるやかな曲線を描いた複雑な造形など、凝った部分が随所に見られ、
それらが、不思議な出方に感じる面や’良い音 ’に一役かってるのかな?なんて思います。
ソースはオールジャンルでいけるが、どちらかと言うと’クラシック ’が向いている。
効率と言うか、ハイブリットと言うか、こういった日本製スピーカーは、どんなソースでもこなす反面、
外国製品のように、’ここに焦点を合わせた!’という強烈なインパクトが無く、
いささか中途半端で、面白みに欠ける、という面もある。
私が現在でもベンチマークにしているスピーカーが、ビクター「 SX-V1 」とONKYOの「 モニター500 」。
この2台はどちらも、メリハリが強く、ボーカルの浮上感も強い。
だから分解能力が高く感じるので、他のスピーカーは団子のように聞えてしまう。
中域に癖がある分、長時間聴いていると、’疲れる・うるさい ’、と感じるところが弱点で、ソースも選んでしまう。
SX-V1の中域は超個性的で、数多く色々な音色を聴いてきたが、これに似た中域は今のところない。
モニター500は、リアル系中域で、フォステクスのフルレンジが好きな人でも、すんなり馴染むような音。
そんな2台のスピーカーだが、新たなベンチマークスピーカーとして、
マイルドな音色が特徴な、この「 LFS-777 」や、DENONの「 SC-E757 」なんかを加えると、
いい塩梅の環境になると言えるほど、傾向が真逆です。
最後に。
KENWOODって見た目に特徴があり、わりと凝った作りのスピーカーが多い。
このLSF-777、一見地味に感じたが、随所にわたり、かなり個性的な面が出ていました。
部屋に置いた時、なじめるかどうかは微妙だが、高級感はあります。
あと一歩、何かが足りない。そこがKENWOODらしい所かもしれないが、
音質も申し分ないし、もっと人気が出てもいいように感じる。(当時は人気ありました?)
マニア好みの音かもしれませんね。
今まで、オーディオショーなどで聴いたKENWOODは、どれも印象が悪く、とくに8cmのトールボーイなんかは
とても聴けたもんじゃありませんでした。
悪い印象の観念があったせいか、KENWOOD製品は、あまり興味が無かった。
だが聴いてビックリ。このLSF-777は、そんな印象を覆すほどのスピーカーでした。
次はいょいょパート4に入ります。
子供の頃、作文はあまり得意じゃなかったが、よくもまァ、毎回スラスラと文章が書けるもんだと、
自分でも感心しています(笑
最初の一台目は何にしましょうかね。
文章も読み疲れしないよう、できるだけ短文にしていきたい、とも思ってます。
|