パート3最後の作品は、KENWOOD。 上位機種、本格スピーカーの登場です。
生粋の日本メーカーで、無線やカーオーディオなど、様々な商品を出しているメーカー。
そんなケンウッドですが、ピュアオーディオ・単品スピーカーというジャンルでは、
あまりピンッとくる商品がありません。
音よりも「 デザイン 」に拘っている。そんなイメージが、私の中ではあります。
このLSF-777、単品かコンポ用だったのか解りませんが、中型スピーカーとしては、いいお値段で、
デザインも、かなり凝ってます。
果たして、値段に見合うだけの’音 ’が出るのか?
さっそくメンテナンスに入りましょう。


KENWOOD LSF-777 1997年 2台 90000円
メーカー解説:点音源思想を具体化し、リファレンススピーカーとして開発されたスピーカーシステム。
方式 2ウェイ・2スピーカー・バスレフ方式・防磁設計(EIAJ)
使用ユニット 低域用:15cmコーン型 ・高域用:2.8cmドーム型
再生周波数帯域 45Hz〜30kHz
インピーダンス
出力音圧 84dB/W/m
クロスオーバー周波数 2.2KHz
外形寸法 幅216×高さ352×奥行326mm
重量 8.7kg
ツィーターは凸凹だが、ウーファーはゴムエッジで問題なし。
さっそくインプレに入ります。
まずは一言
おっ、バランスいいですねー 」「 特に低域の出方が最高かも

高域
うるさくはないが、少し硬く、繊細さにかける。
J-POP50曲中、3、4曲に’違和感 ’を感じた。

中域
ボーカルの凸凹が中間的存在。マイルドでクリアー質。ボーカルの輪郭はシャープで、定位は悪くないが、
浮上感と点音源は微妙なところ。

低域
背面ポートということもあり、前面からの押し出しは弱いが、箱の中から、深くて重い音がけっこう出てくる。
KENWOODは’軽い音 ’のイメージが強いが、これは中々でキレもいいし、解像度も高い。
いいんじゃないでしょうか。

全体音
バランスは悪くなく、良いほうだと思う。
若干箱を響かせてる方向で(箱鳴り)、ソースによってはブォーンとした、繋がりが悪く感じる低域が、たまに出る。
どちらかというと、外国製品のような味付けを、真似ているようにも感じた。

最初はちょっとドンシャリ気味で、ボーカルも凹んでいたので、B&Wの805 に、似た傾向だった。
しばらく鳴らしていると、ウーファーの力が出てきたようで、中域がフラットになり「 潤い 」が出るようになる。
805はカラカラに乾いた音。この潤いが805との’差 ’でもあり、ボーカルものが、気持よく聴ける傾向に変わる。

全体はナチュラルでマイルドな仕上がりだが、とにかく低域の出方は、
一般のスピーカーでは出せないような不思議な感じで、高級志向の特徴も伝わってくる。
ただし、ソースにもよるが若干、高域に変な癖がある。

まずはドーム部を、きちんと直し、しっかりしたメンテナンスをして、
癖をできるだけマイルドな方向へと、リセッティングしたいと思います。
このバッフルは’アルミ ’だが、外れるのか?
とりあえずゴムを外します。
ユニットを止めるネジが出てきました。
ウーファー枠のゴムだが、かなり強固に接着されてました。
バッフルはアルミを塗装した物で、ちょっとした傷でも、下地が顔を出すので、あて布などをしながら慎重に作業します。
ウーファーが外れました。ツィータのネジは赤丸あたりです。
ここでの注意点だが、’ネジが硬い ’ので、普通のドライバーで外すには困難を伴う場合がある。
手回しで厳しいネジが何個かあり、高トルクの電動ドライバーを使いました。T型レンチのようなドライバーでも、いけるかもしれません。
ツィーターのネジを外すさい、ポートがじゃまなので、先に外す必要があります。
ポートはネジ留めで、簡単に外せます。
メーカー製スピーカーは修理時を想定し、ユニットを外せる仕組みになってますが、これもその一つ。
それにしても、でかくて長いポートです。
ポート周波数は、約55Hz。 ポートを外すと、よりズンドコくる90Hzに変わる。
ポートを外して解ったが、背面板(MDF)はなんと’24mm ’でした。
やっとツィーターが外れました。このネジも、とにかく’硬 ’かったです。
体育座りのような姿勢を取り、両足でFバッフルを蹴る形で抑え、両手でドライバーを腹に挿す感じで、力を入れて外しました。
フレキシブルなどがあったとしても、ネジ+部に圧がかからないと、簡単になめてしまう。
ウーファーもそうだが、+ネジではなく、’六角ボルト ’にして欲しいものです。
ちなみにケーブル交換のみでも、TWの端子が箱上部になり、クリアランスがない為、外す必要があります。

右写真、このバッフルだが、板(MDF)でサンドイッチ状に固定後、その板を本体に接着してあります。
なのでとうぜん外れません。 全ての作業は、このウーファーの’穴 ’に、手をつっこむ形でおこないます。
Fバッフルか背面板が外れれば、作業性が格段に上がるんですけどね。
手前の小さい合板はMDFにネジ留めされており、バッフルからのネジ留めに使われている。
ただしこのネジは保険のようなもので、無くてもバッフルが動くような事はない
箱の上部。吸音材に’綿 ’が使われています。
サイドの板は無垢ではなく、パーチクルボードでした。
箱の下部。ここはグラスウール。
サイドに吸音材は無いので、少し響かせるセッティングです。
ツィーター。詳細は書いて無いが、日本製のようです。
このセンターキャップ、DENONにも多く使われてる素材で、音の傾向も似ています。
中央部裏に何かダンプ剤が塗ってあり、そのダンプ剤が’硬化 ’し、キャップが変形するようです。
環境によりますが、自然にこんな形になってしまう素材ですね。
片側は完璧に治ったが、これは微妙なところ(右写真)
ちと見ずらいと思うが、中央部が少し凹み、陥没したチOビのような・・・(笑
折目の癖が中々取れないので、折目が付いてしまった物は、完璧には治りませんね。
あとこの素材、外して直す場合、簡単に’伸びる ’ので、要注意!(DENON製品で経験済み)
裏にはコイルも接着してあり、エッジも兼ねてるので、ヘタに剥すと音が歪みます。安易に剥すのは’絶対 ’に止めましょう。
ウーファー。これも日本製のようです。 特徴は’逆ドームコーン ’で、紙のような素材にコーティングが施してある。
昔のユニットに多く見られる、’コルゲーション(波型)’が薄っすら入ってます。
逆ドームは、中域の癖が出にくい形状ですね。 エッジはゴムで、厚みもあります。
出ました!このフレーム。 ダイヤの15B以来となる、この強固なフレームは、とにかく’最高
一体形成かどうかわ解らないが、’オールアルミ ’ マグネットサイズは一般的だが、フレームに厚みがあるので、重量もある。
こういうのがまさに’
日本の傑作 ’と言える、あっぱれな品ではないでしょうか。
手に持った感触だが、はっきり言って、フォステクスのFE138ES-Rより、頑丈な感じが伝わってきます。
コストがかかりすぎるのか、このような製品は貴重ですよね。
ウーファーを外した時、チラッと見え、かなり気になってたネットワーク。
手をつっこみ、ネジを外します。これもけっこう’金かけてますよ ’
詳細は、TWが約2.5KHzカットで、18dB/oct  WFが約1.7KHzカットで、
12dB/oct

メーカー文にある、クロスオーバー周波数付近で、同一電流が2つのユニットに流れる方式を用いたSS(Subtraction Series:減算形直列)ネットワークを採用。
というのは正直わからない。
メーカー製ネットワークは、コンデンサーを直列や並列にし、間や前後に抵抗を入れる、などの複雑な物も多い。
これは単純に、コンデンサーの癖を軽減させるだけではなく、耐久性や対入力など、実用で不具合が出にくいよう考慮されている。
当り前の事だが、こういうところが’自作 ’とは違った一面といえる。
これだけのネットワークを搭載したスピーカー、日本製で90年代、しかも後半辺りの時期を考えると、
中々無いのでは?と思える。それだけ、よく考えられ作られたネットワークです。
80年代製品には、ざらにありますけどね。
裏はこんな感じ。 TWには’ERO ’のコンデンサーが使われてました。
単3電池との比較だが、とにかく大きい!ですよね。 さっそくテストします。
もぅ少し高域をマイルドで、繊細な音にしたい!」 と言うのが、セッティング目標になります。
TWのEROだが、47μFとかなり大きく、定数よりも倍近い。
これは単純に、ピーキーな音を出さない、いわゆる’ ’を出にくくする為の措置と思われる。
ただ残念、もぅ一歩なんですよね。
18dB/octは、コンデンサーコイルコンデンサーとなる訳だが、後のコンデンサーだけ容量を大きくしてもダメなんですよね。
勝手にだが、開発者の気持は、すごく理解できます。
一番いいのは、コイルの容量を大きくする事。これが一番、’’には有効な措置です。
ただ、コイル変えると音色も変わりますので、私は入口のコンデンサーを’ERO ’にし、容量も増やしました。
同メーカー・同素材を使い、流れが自然になれ!が目的だが、気分的にもいいですよね。
基盤に穴をあけての取り付けなので、比較的簡単です。
次に繊細さをより表現しやすいよう、ケーブルを交換します。
これはサーマックス製で、同軸ケーブルのようなシールド線。 シールドの網線は銀メッキ
見ただけで(輝き)錫メッキとの違いがわかるでしょ。
内部は2芯で、約22AWGの銀メッキ・より線。 振動処置か、透明な線が2本入ってます。
耐火テストをしたので、左写真・先端が焦げてますが、間違いなく被覆は’テフロン ’です。

このケーブルもデットストックで、もぅ入手は困難でしょう。
高域が非常に’鮮明 ’な為、低域の迫力に欠けてしまう。
RCAインタコにと思っていたのだが、そんな理由で保留にしていました。
この線は2芯なので、このまま使用できるが、よりマイルドに低損失を考え、この一本を’片側 ’に使用にします。
TWの元線をウーファー側に追加します。
元がOFCの2mmと、わりと太めな線ですが、2本で4mm。
1本より低損失になるのは当たり前ですが、捻るので、ノイズとジャダーにも有効でしょう。
抵抗の足が長い為グラつきます。
ケーブル類同様、グルーでガチッと固めました。
ハンダは銀入りを使用。ブチルや熱収縮チューブを使い、きっちり処理して完成!
さて、箱の仕上げに入ります。
中々奇麗な突き板ですが、天板と側面の模様が合ってないのが、残念。
写真で解るよう、ちょこちょこ小傷があります。
これは底面で一番深い傷。
ビニールシートは埋めて、突き板は削って直しますが、
これくら深い場合は、埋めが必要になります。
ペーパーで削ります。
写真のように白い粉が噴くのは、表面にクリアーが塗ってある証拠。
塗装のみで処理した例です。
元よりは目立たないが、完璧に直すなら’埋め ’が必要。
ここは底なので、これでいいでしょう。
このスピーカー全面、写真のような、ちょと深めの’溝 ’を設けた作りになっている。
この溝が微妙で、ボンドカスで凸凹だったり、ごみも溜まりやすい。
黒にすると、かえって目立つような気がするので、本体色に近いステインを、流し込みました。
段ボール箱からスピーカーを取り出し、そのまま設置する。なんて感じなら、あまり気にならないかもしれないが、
間近で傷の修理をしていると、気になるもんです。
薄い傷はペーパー処理したが、全体のクリア層が少し雑で、
’ざらざら ’しています。
こんなのが非常に気になるので、全体も処理します。
ここは角で無垢材だと思うが、写真のようにざらざらしてるのが解るでしょ。
仕上げ工程が省かれているのか、ダメですね-。
もちろん直します。
小傷の数は多かったが、表面は幸いに、深い傷はありませんでした。
ビニールシートでも突き板でも、色が合えばかなり奇麗に補修できます。
ただ突き板の場合、部分的に色を馴染ませるのが少々’困難 ’。 面全部を削り、全面をオイルで仕上げれば、
’色差 ’も無くなり良いのですが、元の色味が変わる事や、時間と手間がかかります。
なので私の場合、塗料を’調合 ’して、できるだけ近い色味で、部分的に補修しています。
近くでまじまじ見ると解りますが、パッと見は解らないレベルでしょう。
オイル仕上げなので、乾くのに3、4日必要。その間は先に進み、完全乾燥後’蜜蝋WAX ’で仕上げます。

ユニットもいつも同様、完全に仕上げてます。 ターミナルはくすみが酷かったので、半艶くらいですかね。
ネットワークを取り付け ユニットを取り付けます。
ポート、ターミナルの取り付け。
ターミナルカバー、何気なく回した程度だが、一か所欠けてしまったので補修しました。 極まれにありますねヾ(^^;
最後にウーファーのカバーの取り付け。 写真のように’溝 ’があり、精度がとても高い。さすが日本製と言ったところか。
完成!!!
なんか見れば見るほど、かっこよさが増してくる、この造形。
黒の部分が、革とか鏡面だったら、もっと高級感でるんでしょうね。
カバー付けないほうがいいかな。 注意点!重心が前よりなので、持ち上げたりする時は、前を意識したほうがいいです。
まずこのスピーカーだが、中々良い音の持ち主である。
故に、ケーブルの交換などライトチューンを施したくなる素体だが、他のスピーカーのように、簡単に交換できるしろものではない。
この手の作業に慣れていないなら、安易にいじる事はおススメしません。

じっくりエージング後、インプレに入ります。
バランスイメージで、何となくフィーリングを掴めると思うが、全体音のバランスは、ノーマルと変わってません。
違いは、高域の繊細さで、ケーブルが効いているのか、より繊細で密度の濃い音が出るようになりました。
中・低域の音質は変わってませんが、元の暗め印象から、鮮明度が増し、エネルギッシュで
躍動感が伝わりやすくなった気がします。

とくに
低域は、文章で伝えるのが難しいが、何か奥が深い、すばらしい音に感じます。
Fバッフルが金属製のスピーカーは少なく、私の所有した中でも、ビクターSX-V1に続いての2台目。
コンクリートでできたスピーカーの音を、じっくり聴いた経験は無いが、そんな高剛性とは別物で、
金属と木材の組み合わせによる、しなやかさがありつつも剛性が高い。
ちょっと不思議さが感じる音。そんな傾向が、’良い音、良い低域 ’を感じられる要素かもしれません。

高域だが、例えばスーパーウーファーにスーパーツィーターを組み合わせた音。
中域が抜けていて、高域の’シャリシャリ ’感が目立つ。
そんな音は高級機にもありがちで、これもそれに近い音の出方でした。
好みでもあり悪くはないが、何か少し’不自然さ ’を感じた。
だから、ツィーターから出る音の帯域を増やし、シャリシャリ感を減らしたのが、チューニングバージョン。
音の傾向はほぼ同じ。違いも若干なので、聴き比べをしないと解らないレベルだが、
長時間聴いていても、聴き疲れしない音、そんな傾向がチューニングVer.では、感じられます。

中域・ボーカルは凸凹の中間位置。若干凹み寄り。
メーカー文で’点音源 ’を意識しているようですが、それに関しては、フルレンジや同軸ユニットには、
遠く及ばない、と言ったところです。

総評としてこのLSF-777は、
バッフル面が傾斜していたり、ゆるやかな曲線を描いた複雑な造形など、凝った部分が随所に見られ、
それらが、不思議な出方に感じる面や’良い音 ’に一役かってるのかな?なんて思います。

ソースはオールジャンルでいけるが、どちらかと言うと’クラシック ’が向いている。

効率と言うか、ハイブリットと言うか、こういった日本製スピーカーは、どんなソースでもこなす反面、
外国製品のように、’ここに焦点を合わせた!’という強烈なインパクトが無く、
いささか中途半端で、面白みに欠ける、という面もある。

私が現在でもベンチマークにしているスピーカーが、ビクター「 SX-V1 」とONKYOの「 モニター500 」。
この2台はどちらも、メリハリが強く、ボーカルの浮上感も強い。
だから分解能力が高く感じるので、他のスピーカーは団子のように聞えてしまう。
中域に癖がある分、長時間聴いていると、’疲れる・うるさい ’、と感じるところが弱点で、ソースも選んでしまう。
SX-V1の中域は超個性的で、数多く色々な音色を聴いてきたが、これに似た中域は今のところない。
モニター500は、リアル系中域で、フォステクスのフルレンジが好きな人でも、すんなり馴染むような音。
そんな2台のスピーカーだが、新たなベンチマークスピーカーとして、
マイルドな音色が特徴な、この「 LFS-777 」や、DENONの「 SC-E757 」なんかを加えると、
いい塩梅の環境になると言えるほど、傾向が真逆です。

最後に。
KENWOODって見た目に特徴があり、わりと凝った作りのスピーカーが多い。
このLSF-777、一見地味に感じたが、随所にわたり、かなり個性的な面が出ていました。
部屋に置いた時、なじめるかどうかは微妙だが、高級感はあります。
あと一歩、何かが足りない。そこがKENWOODらしい所かもしれないが、
音質も申し分ないし、もっと人気が出てもいいように感じる。(当時は人気ありました?)
マニア好みの音かもしれませんね。
今まで、オーディオショーなどで聴いたKENWOODは、どれも印象が悪く、とくに8cmのトールボーイなんかは
とても聴けたもんじゃありませんでした。
悪い印象の観念があったせいか、KENWOOD製品は、あまり興味が無かった。
だが聴いてビックリ。このLSF-777は、そんな印象を覆すほどのスピーカーでした。

次はいょいょパート4に入ります。
子供の頃、作文はあまり得意じゃなかったが、よくもまァ、毎回スラスラと文章が書けるもんだと、
自分でも感心しています(笑

最初の一台目は何にしましょうかね。
文章も読み疲れしないよう、できるだけ短文にしていきたい、とも思ってます。

      ・・・        ・・・・・