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●続いてキャビネットの作業に入ります。
まずは傷の状態を一つずつ確認。いかんせん傷が多く、大小合わせると全部で26ヶ所ありました。直すのは難しくありませんが、外装は大きな傷があると常に目に付いてしまい、愛着もうすれてきます。だからしっかり補修しますが、もし家具の修理屋でしたら傷1ヶ所2、3千円ってところで大変な修理金額ですね。

1983年以前のJBLモデルや、80年代前半の山水製キャビネットでは質の高い、厚目のウォールナットが使われてます。このHS-500も山水同様、水準の高いウォールナットが使われておりました。
JBLでは4312Aが分かれ道で、それ以降の水準は残念ながら下がってしまってます。時代のせいもありますが、4312Aは当たり外れがあるので、特に木目を気にしながら見るのもいいでしょう。
●質の高い外装には質の高い突き板を使って補修します。左は未塗装で右は箱の色に合わせて着色したものです。JBLではこの着色剤が経年劣化により、色むらや黒ずみを引き起こしており、特に天板は酷い物が多いのが現状です。
●角は剥がれや潰れがもっとも多いヶ所です。まずは突き板が貼りやすくなるよう直線に切り込んだり、表面をフラットに成型します。その後突き板を貼り、削って塗装して完成。塗装と同じで下地を念入りにやれば、仕上がりも綺麗になります。
●これはよくある角の潰れ。車の板金と同じで、まずは凸凹をある程度フラットに補修します。その後表面の突き板を剥がし内部を成型、最後に剥がした突き板を元の位置に貼って完成です。ここもやはり下地の成型具合で良し悪しが決まってきます。
グレー箱などは鋭利にしすぎると怪我をする恐れがあるので、若干丸めたりなんてもしています。
●天板にあった深い傷も目立たなくなりました。
今回のHS-500は傷は多いものの、天板以外両サイドは表面の状態が良かったので、どこまで手を入れるか悩みましたが、せっかくなので全体をまるまる施工することにしました。
●塗装して乾燥したらトリートメント。さらに乾燥させて完成です。表面に塗ってある元の塗装を調整してるので(プレミアム施工と同じやり方)、見違えるように綺麗になりました。
●バッフルも再塗装。ポート内部や、マジックテープを止めるネジなどなど、細かい所まで気を配って塗装しています。
このあと乾燥室で2週間くらい寝かせて完成。
●箱の乾燥中ネットワークに着手します。
ケーブルとコンデンサーは交換してあったようです。
●太いケーブルの場合いくつか問題点がありまして、写真のよう小さくて細い金具・ラグなどに取り付けた場合、ケーブルの重みで金具の接点がズレることがあり、最悪接触不良を引き起こす場合があります。
「 良いケーブルに交換したのになぜ音が? 」なんてこともまれにあります。最初に取り付けた時は問題なくても、こうして何度もカバーを外したり動かしている内に、金具が外れたり亀裂が入ることもよくあります。なのでこういうのを見た場合、まずはケーブルが動かないよう、やばそうな所を仮止めしていきます。

ロータリースイッチは可変式アッテネーターとは違い、減衰力は一定値に固定されます。だから微調整はできませんが、一般的なアッテネーターより音質が良いのがメリットです。
接点を回復させるのは可変式アッテネーターと同じで、一度分解してクリーニングするのが最適ですが、これはちょっと大変ですね。

●コンデンサーはDAYTON250Vが付いてましたが、ジャンセン400Vに交換しました。電解コンデンサーに比べれば高域の伸びは雲泥の差です。電解コンデンサーは高域が伸びないため、逆に低域が出てると勘違いする人も多いようです。
さらに音質の要をになう抵抗は、すべて酸化金属皮膜抵抗に変えました。セメント抵抗に比べると低雑音で、熱に強いのも特徴です。
ツィーターのコンデンサーをフィルムに交換するのが得策のよう、抵抗の場合は特にウーハー側を交換すれば効果も実感しやすくなります。今回はアッテネーター式なので、一応全部交換しました。

●それともう一つ大事なことがあり、それは接続方法です。写真のよう固定するだけが目的のようなラグには頼らず、できるだけ直結になるよう接続を工夫するのも秘訣です。すると大音量でも小音量でも安定するというメリットが生まれます。当時のダイヤトーンのネットワークでは、そのあたりは得に神経を使って製作されてる様が見られます。適当に部品を交換するのではなく、電気の流れをじっくり確認してから組んでみると、さらに良い結果が得られます。
●こちらは基盤の表側にあるターミナルやノブ類。
これらも接点に大きく関わり音質に左右される部品なので、徹底的にクリーニングし接点を復活させます。何より見た目が綺麗だと気分が違いますよね。ノブはアルミ製で重厚な作りのものでした。
●ユニットのオーバーホール、キャビネットの新品復活仕上げ、ネットワークチューンと、全てのパーツが完成しました。あとは慎重に組み上げていきます。
●ウーハーの背面穴はどうしようか悩みました。中にごみが入ると簡単には取れません。かといって同じ状態にはしたくないので、取り替えやすく、かつ排圧も同じくらい得られるよう、ウレタンスポンジを巻きました。
これでゴミの進入も防げ、排圧の抜けすぎ防止にもなります。劣化しても容易に交換できる最善策だと思いました。ただ10年やそこらでは加水分解はしません。
●逆の手順でツィーターを取り付けたあと、ひっくり返してウーハーを取り付けます。
●ネジも1本1本丁寧に磨きました。きっと新品時はこんな感じだったと思われます。
最後にツィーターの音響レンズを取り付けて完成ですが、その前に
●新しい音響レンズを製作します。
まずは材料となる板を切り出しました。
●こちらはレンズを取り付けるためのパーツです。気の遠くなる作業は苦手なので、一心不乱にやり遂げました(笑
●上のパーツをベース板に接着していきます。
この角度がレンズの角度になります。手作業なので誤差はありますが、だいたいは正確にできたと思います。組み立ても色々と工夫しました。最後に塗装してベースの完成です。
●こちらはレンズ・仕切り板です。カッターでカットしたので、ある程度の精度は出せました。取り付け前に塗装し、木目の具合を確認していきます。同じ塗料でも木の場所によってこんなに色目が違います。これが組んだときに味になるわけなんです。
●最後に組み立てて完成。
硬くてキツめの音が出るツィーターに対して、木製レンズは効果的だといわれてますが、HS-500のツィーターは柔らかいので、見た目の雰囲気を重視して製作しました。
●そしてようやく、ようやく完成!
      このように新品復活レストアされました!

レストア前、素の状態での音出しは「 音いいな 」「 綺麗 」「 上品 」という感じでした。 
メーカーが威信をかけと宣伝してるだけのポテンシャルでした。
ですが女性ボーカルを次々に聴いていくと、どれも似た感じで飽きてしまいます。 
そこで、「
中域の厚みを改善 」することを目標にチューンしました。 

私が感じたHS-500の問題点 
 1、一般的な凸型エッジのストローク量(上下に動く量)を10とした場合 
   このギャザードエッジは7くらい。動きが硬く、余裕も少なめ。
 2、ダンパーの面積(中心からの距離)が一般的な物にくらべ 
   少ない。よってエッジ同様、動く量や余裕が少ない。
 3、箱はバスレフだが、仕様によりほぼ密閉と同じ出方。 

結果、完全な低歪みは実現できたと思うが、逆に余裕の無い音になる。

極端な言い方をすればダイヤトーンの固まったエッジと同じで、中低域が制限 
されている出方。ただしダイヤトーンはエッジを柔らかくすれば回復しますが、 
HS-500は元々の動きが制限された構造なので、ストローク量を増やすことは簡単 
ではありません。このままだと密閉でもバスレフでも同じ音しか出ないという事です。 

次に改善方法 
中域・ボーカルの声質に厚みを持たせ、リアルな質感を得るためには 
 1、ユニットのストローク量を増やす(自然) 
 2、箱を密閉から→バスレフに変更する(ソースによっては不自然になる場合も)
 3、コンデンサーの容量を上げる(全体のクロス変更がほぼ必要になる)
ということで1、が一般的に一番自然で良い方法です。 

ですがこのユニットL-200は、オーバーホールが進まないほど神経を使う作業、 
へたしたら最初よりも質の悪い音になりかねません。そこが一番の問題でした。  
そして壊さぬようこつこつ進め、時間をかけて何度もセッティングした結果 
声に実在感が出て生々しくなった 」という印象に変わりました。 

一番はやはりユニットのオーバーホール効果が大きいものでした。あとはネットワーク 
やポートの調整など、バランスを見ながらチューニングした結果が音となり現れました。 
ちょうどいい例えがあり、元のHS-500はJBLの4312Eのようなサラサラした傾向ですが、 
繊細さと荒々しさを兼ね備えたメリハリある、4311Aアルニコの音を手に入れた。 
そんな表現がぴったりかもしれません。 


最後に。 
今回のLo-D HS-500のフルレストア、いかがでしたか。 
もし私が逆の立場の場合、例えばいつも使ってる靴とか財布とか、愛 
着ある品が新品のようになって戻ってきたら、それは嬉しいことです。 
わざわざお金をかけてレストアするのですから、それだけの価値に見合うよう 
もてる技術を駆使し、出し惜しみせず一心不乱に作業しました。ストレートな書き 
方をする私ですが、もう今年の作業は詰まるほど予約をいただいており、ご依頼 
主様方々には感謝でいっぱいです。毎回丁寧な作業ができるようがんばります。 

次回、まだ未定ですが、新鮮な情報をお届けできればと思っております。 
    たぶんまた間があきそうですが、次回もお楽しみくださいませ♪ 

日立の名器 Lo-D HS-500 1969年発売、1台 \65,000 〜 1975年頃、1台 \85,000
メーカー解説:ローディの代表作として有名な2ウェイスピーカーシステム。

・低域には20cmコーン型ウーファーであるL-200を搭載。このユニットは振動系を支えるためにギャザードエッジと
センタリング・スパイダを搭載しています。またロングトラベル・ショートボイスコイル、口径10mmを採用。
・高域にはホーン型トゥイーターであるH-70HDを搭載。
このホーンは、アルミ丸棒より1本ずつ入念に削りだされたもので、指向特性改善のため前面に音響レンズを搭載。
ダイアフラムには、軽さと高温多湿への耐用性を求めるため、高純度のマイラーを採用。
・ネットワーク部には12dB/octのLCネットワークを採用しています。また、2dBステップのアッテネータも装備して
おり、使用状況に合わせた調整が可能です。マルチアンプ端子も搭載しています。
・エンクロージャーは密閉方式とバスレフ方式の両方の利点を得るためダンプドバスレフ方式を採用しています。
この方式ではポート及びエンクロージャーに空気密度の5倍ものグラスウールを詰めることで適当な音響抵抗を設け、
低音の再生能力を高めています。また、ダンプドバスレフ方式ではポートとスピーカー両方から音が放射されるため、
スピーカーの振動振幅が密閉型に比べて小さくなります。このため低音での歪が低下しています。
素材には硬質ホモゲンホルツを使用しており、4面仕上げが施されています。
方式 2ウェイ・2スピーカー・ダンプドバスレフ方式
使用ユニット 高域用:ホーン型(H-70H)
低域用:20cmコーン型 (L-200)
再生周波数帯域 40Hz〜20000Hz
インピーダンス
出力音圧 88dB/W/m
クロスオーバー周波数 3KHz
外形寸法 幅360×高さ610×奥行347mm 約50L
重量 22kg

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