●日立 Lo-D HS-500 がヴァリアスクラフトに登場です。 
到着後さっそく鳴らしてみると、柔らかくてバランスの良さが際立ってました。 
色々なソースを使いテストに1週間かけ出した答えは、良い音はよ 
い音なんだけど、どこか優しすぎると言うか物足りない面もみられる。 
美人は3日で飽きるじゃないですがなにかスパイスが欲しくなる。あた 
りさわりの無い無難な音はビクターのV1Xと似た傾向でもありました。 
テストに時間をかけたので長所と短所がよくわかってきました。 
そして物足りないところをチューニングするのもレストアの醍醐味。 
果たして満足いく結果を得られるのか?問題点も浮き彫りにしながら 
ご紹介。HS-500のフルレストア&チューニング奮闘記をご覧ください。
 
●開封してすぐの状態。
箱の傷は多いものの、音出しは問題ありません。ユニットもパッと見問題ないように思えますが
●よくよく観察していくと、怪しいところを何ヶ所か発見しました。写真右は上側にあるフロントポート。奥に見える白い綿で入り口が塞がれています。棒でずらしてみると、汚れとの境目がくっきりわかるほどでした。これはたぶん元々の仕様のようですね。
左は20cmウーハーのL-200。これが有名なギャザードエッジなのですね。だいぶ汚れが付着しているようです。そしてこのエッジの素材は・・・。
●とりあえず本体を横に寝かしユニットを外してみます。ネジは+でボルト&ナット仕様。固着もなくすんなり外れました。
●こちらはツィーターに装着されたレンズで素材はプラスチック。よく見ると仕切りが平行ではなく、内側に向かって少しずつ傾いてます。これは指向性を真ん中に集めるのが目的でしょうか?レンズを装着すると音の輪郭が少し明瞭になるので、それなりの効果はあるようです。臨場感を出したいなら外したほうが○。良く考えられてますね。
●正面のネジはウーハーとツィーターレンズのもので、ツィーター本体は内側から装着されています。
ウーハーはバッフルにややくっつき気味でした。
●ツィーターを外すため背面板を外します。12個の木ネジでしっかり留められてました。
この木ネジは細めで溝が浅く、さらに箱がパーチクルボード(崩れやすい)なので、開け閉めやってるとばかになりがちです。溝の深いネジに交換するか、ネジ穴を軽く埋めておくと、よりガッチリ閉まり安心できます。
●背面のターミナルとアッテネーター。
左はバイワイヤ(ツィーターとウーハーが独立)で、右が通常接続です。真ん中のスイッチはバイワイヤと通常接続の切り替え式になってます。右のスイッチは通常接続時のアッテネーターで、5段階の切り替え式(ロータリースイッチ)です。
最初に見たとき、上に書かれている表示が”2way”と”フルレンジ”になってるので、フルレンジはウーハーのみか?なんて錯覚しましたが、右のフルレンジが通常の2way接続でした。
●さて、木ネジを外し背面板を手前に引っ張ると、するっとした感じでわりと楽に外れます。背面板を外した瞬間、箱内部が吸音材でぎゅうぎゅうに詰まっており、これ密閉だな、と思えるほどでした。
その吸音材を外していくと
●ユニットが表れました。
そして背面板には複雑なネットワークが装着されてます。こちらもパッと見太いケーブルだなと思ったら、交換されているようでした。
ツィーターは4つのボルトを外すと簡単に外れます。ただし吸音材が箱に接着されており、ネジを回すのにじゃまでした。ツィーターと吸音材を全部外します。
●左赤線はポートに接していた部分で、完全に密着していた様子がうかがえます。おかげで内部は超綺麗です。メーカーの説明によると「密閉とバスレフの両方の利点を得るための方式、ダンプドバスレフ」という方式だそうです。ダンプドバスレフという言葉は始めて聞きました。ONKYO製品はこのような処理が多く見られます。これの場合はどちらかと言うと密閉に近い感じです。右写真、箱の板は分厚く頑丈な上、補強も数多く丁寧に作られてることわかります。
●次はユニットに入ります。こちらは単品でも発売されていたアルニコウーハーで型式はL-200。単品発売のせいか造形が綺麗で、表面もしっかり処理がほどこされてます。そしてギャザードエッジ。これは日立製品だけのようですが特許物でしょうか?
さっそくユニットのオーバーホールに取り掛かりますが、
@最初に注意して欲しい点があり、それは
●マグネットフレームの穴です。そこにスポンジが詰まっており、このスポンジが厄介で、ちょっと触れただけでもすぐボロボロと崩れてきます。何気にユニットを手に取ると、この穴の大きさと位置がちょうどよく指にフィットします(^^; それでスポンジが粉々になり、フレーム内部に入り込んでしまいます。私はネットで事前に調べており、外す時に触らぬよう気をつけいましたが、知らないと大変な目にあいそうです。そこばかりに気を取られがちですが、ボイスコイルが異様に大きいですね。ダンパーのヘタリも問題ありません。
●とにかく先にこのスポンジを取らないと気が気でなく、作業もままなりません。装着する時に接着してるようで簡単には取れません。
内部に侵入しないよう穴を下向きにしながら、接着部分を少しずつはがしていきます。この時ユニットを縦にしますが、不安定なので誤ってコーンを指でぐしゃ、なんてならないよう気をつけます。
●このスポンジはご覧のよう、軽く触れただけで粉々になるので、とにかく慎重な作業が必要です。
このユニットは一般的な物とは違い、超デリケートに設計されてます。だから分解も難しくスポンジが内部に侵入すると取り出す作業も困難です。これは信頼できるプロに任せるべきユニットですね。適当な業者では引き受けないと思われます。まだまだ問題は続く。
●とりあえず綺麗に取れました。これで普通に触れられます(笑 ちなみにラベルの横に4つのネジがありますが、「 これ絶対に外しちゃダメですよ
このネジを外せばカバーが外れるだろ?なんて思わせぶりな位置にあるのですが、これは内部のフレーム・ヨークを固定するためのネジで、コレを外すと少しの振動でヨークがずれ、コイルが挟まり固着し破損する恐れがあります。私も初心者の頃、見えるネジはまっ先に外してしまい、よく失敗していました。分解の基本はダンパーからです。紛らわしいですよね。
●スポンジが入っていた穴からは内部のフレームが見えました。この穴は背圧にも関係しているので、どう処理するか考えます。
●お次は難関のギャザードエッジです。
オーナー様からは汚れがひどいので落として欲しいとのご要望がありました。ルーペを使いじっくり観察していくと、どうやらこの素材はコーンと同じ「 紙 」のようで、汚れはカビのようです。
もしかしたらコーンとエッジが一体成型か?なんて思い裏面を確認してみると
●それぞれ単体部品のようです。注意点A
このギャザードエッジは歪が出にくいのが特徴のようですが、その分遊びや動き幅(ストローク)が少なめです。遊びが少ないというのは、コーンが少しでも傾くとコイルがすれる、ボイスタッチが起こります。エッジの一部分を指で押しただけでも、簡単にコイルが擦れるほどでした。素材が紙なので折れ目が入ると元に戻りにくく、素材が仇となり分解もままなりません。新品で変形の無いエッジがあれば別ですが、これを組み直すには通常の10倍以上の神経が必要でした。
●エッジ部分に付いた汚れはカビのようなので、専用の洗剤を使い、一山ずつ一ヶ所一ヶ所慎重に作業していきます。何度も言いますが、この一山を折っただけでも、ボイスタッチが起こる可能性があるほどです。
赤線の内側は汚れを落とした後。クリーニングだけでもだいぶ綺麗になりました。気の遠くなる作業です。次はセンターキャップを外します。通常コーンごと外してから作業する場合もありますが、このユニットは変形の恐れがあるので、先にキャップを外します。

注意点B
センターキャップを外す場合、カッターなどは使わず指で引き剥がしていく場合が多いですが、とくにこのユニットの場合、キャップが大きくのりしろも大きいためボンドの量も多い、だからしっかり接着されており、ある程度の力をかけないと剥がせません。ビクターの紙コーンなら和紙のよう表面だけ分離しやすいのですが、この紙は違います。かといって溶剤を使えば紙コーンが染みだらけになり強度も弱まります。さらにコーンの角度が急なので、指や道具が入りずらい、だから一部分を剥がし、そこから手で引っ張って剥がしていくような方法が考えられます。ですがそれをやるとコーンが変形する恐れもあるので、私はそれをやりません。
←そしてこれが完璧な仕事です。
センターキャップのフチ部分や、コーンの接着面を見てください、変形はおろか傷一つありません。これは今までこなしてきた経験と、電気式の自作道具を使ってるからこそできる技です。それでも大変ですが。

●キャップを外すと、劣化でボロボロに崩れる寸前のスポンジが出てきました。もはや時間の問題でしたね。これが崩れてコイルの隙間に入ると、ガサゴソと擦れた音がして使えなくなります。そうなる前に取り出すのがベストでしょう。当時これを設計した方は、良かれとおもいやったことだと思いますが、まさか数十年後にこんな事になるとは想像もしなかったでしょうね。

注意点C
これも外すさいの注意点ですが、上の写真でわかるよう、ボビン(肌色の丸い枠)とコーンとキャップが際で接着されてます。そして一般的にはボビンの少し下にコイルが巻かれてますが、これは上側の位置から巻かれてます。ということは、カッターのような刃物で接着を剥がそうとし、誤ってボビンを傷つけると「
コイルまで切断 」してしまう危険性があります。上からコイルを切断すれば、部品が無い限りまずおしゃかです。それを回避するために多くは手で剥がします。JBL・LE25ツィーターのキャップも同じ危険性がありますが、とにかくやっかいです。

スポンジを取り除いたあと、接着剤がこびり付いてるのでそれも取り除き、錆止め剤を塗って完了です。

●外したキャップを一度仮止めしたあと、歪が出ていないかスイープ音を流し入念にチェックします。その後、エッジのクリーニングをはじめ、コーンの染みを取りムラを目立たぬよう着色。十分に乾燥させたあと再度信号を流し、歪が無いかテスト。その後カビが発生しないよう専用溶剤でコーティング、さらに紙質を強化させる溶液を塗ります。最後にまたテストして完了。慎重に慎重を重ねた上、途中で何度もテストが入るので、このユニットだけで1週間以上かかり大変でした。

ですがもう「
安心してがんがん鳴らせます 」^^
●ふ〜 続いてはツィーター。
アルミ一体成型の高級ホーンツィーターってやつですね。写真だと綺麗ですが、実物はけっこう汚れてました。全体は再度磨き直します。
こちらはホーンツィーターに多いアルミやチタンのダイヤフラムではなく、マイラー素材のフラムです。なのでチタンのようなメリハリは若干薄れますが、逆にリボンのよう柔らかくて包み込むような、心地いい音色が特徴です。もし部品が合うのなら、チタンに変えてもおもしろいかもしれません。
●本体の背面にあるラベルを剥がすとネジが出てきますので、それを外すと中央が分離します。
ですがこちらも紙と同じくらい繊細なマイラー(薄いプラスチックフィルムのような感じ)なので、剥がす時くっついていて、折れたりしたら大変です。
錆が出ていないか確認だけして元に戻しました。レストア依頼を受けるということは、万が一壊したら弁償になります。JBLと違いこの素材は入手困難なので、終始気を使う作業となりました。

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