●今回ご紹介するスピーカーはこちら
左から
NS-10M(以下10M) NS-10MPRO(以下PRO) NS-10MT(以下MT)
この3種をYAMAHA3兄弟と、勝手に名付けていたわけなんです。

 10Mと言えばスタジオモニターとして有名ですが、そのスタジオ専用として改良されたのが10M STUDIO であり
10M STUDIO を家庭用に改良したのが10MPRO。
そして家庭用の定番を目標とされ開発されたのが10MTである。

 10Mシリーズにはそんな流れがあるわけだが、ここはスタジオじゃなく一般家庭なので、今回の3機種をチョイスしたというわけ。
たぶみなさんはSTUDIOが一番気になるのでは?なんて思いますが、実はPROと同じらしい・・・他メーカーとの対決用に温存しときます(^^;

ほかには、ずいぶんと改良された感のする10MX(密閉)を入れたかったのだが、たま数が少ないのか?
入手できなかったので、今回の3機種となりました。それでは内部検証にうつりましょう。
YAMAHA NS-10M      1978年〜 \50,000(ペア)
YAMAHA NS-10M PRO  1987年〜 \55,000(ペア)
YAMAHA NS-10MT    1996年〜 \68,000(ペア)
ほぼ10年単位で、比較するにはベストかもしれませんね。
メーカー解説:
方式 方式 2ウェイ・2スピーカー・密閉方式 MTはバスレフ方式
使用ユニット 高域用:3.5cmドーム型 MTは3cmドーム 低域用:18cmコーン型
再生周波数帯域 60Hz〜20kHz MTは43Hz〜30kHz
インピーダンス MTは6Ω
出力音圧 90dB/W/m 共通
クロスオーバー周波数 2kHz、12dB/oct 共通
外形寸法と重量 外形寸法 幅215×高さ382×奥行199mm  重量 6kg 10MとPRO
外形寸法 幅215×高さ382×奥行255mm  重量 7kg MTは奥行きのみが違う
●さてエッジに不安はあるものの、動作は問題ないので、このまま視聴へとはいります。
音質の違いは、ノーマルの10Mを基準にしながら比較していきます。

まずもっとも重要かつ差が出たのは、やはり
中域でした。
ボーカルの声が一番クリアーなのが10M、ついでPRO、最後はMT。
 10MとPROはかなり近い音質で差が感じられないほどだが、しいて言うならPROは若干艶っぽく、中域周辺がややスッキリした印象。
これはツィーターに付けられたフェルトのみの違いとも言えそうなほどでした。

 その2種に比べMTは、フロントポートのバスレフというセオリー通りの音であり、中域はやや凸でつっぱった感じがします。
付加帯域によるエコー感や、中域周辺にやや雑身があるという、前2種とは大きく違う音質でした。
これはユニットやネットワークの違いではなく、あきらかに方式の違いと言える結果だと感じました。
MTを聴いた直後10Mを聴くと、やけにさ行が強調されているようにも聴こえてきます。

続いて低域だが10MとPROはほとんど同じ。
MTはあきらかに太いだろうという予想に反し、意外とおとなしめのスッキリした低域でした。
これはモノラル視聴による結果でもあり、ステレオで聴くともっと量感も増えてるように感じるでしょう。
 一般的な密閉とバスレフの比較では、迫力のあるバスレフは”おおっ ”なんて感じで有利ですが、
今回のMTはそこまでの押し出しも伸びもなかったので、逆に締りある解像度の高い密閉のほうが、良く感じました。
エージングもまだまだだなあと感じたMTですが、付けくわえますと
 どうも箱鳴りのような低音なんですね。だから余計ぶよぶよしてるというか、良くは感じませんでした。

最後は高域
 ここも予想に反し、3種の差が意外とないという結果でした。
相変わらず超高域・伸びがたりない高域でしたが、MTも同じようなフィーリングで少しがっかりしました。
 10Mはよく高域がうるさいとかティッシュを なんて話も聞きますが、これはあまりうるさく感じませんでした。
MT同様あまり鳴らされていなかったのか?サランネット装着でバランスが取れると感じたほどです。
うるさく感じるのはソースや環境にもよりますが、その前にユニットがきちんと機能してるのか?
というのも、一番の問題ではないかと考えられます。

総評
なんとも歯抜けといいますか、キレのない微妙な結果にはため息がでるほどでした。
密閉とバスレフという方式の違いが、そのまま音質の違いとなった結果であり、
大雑把だが、質感や特性は全部同じと言えるほどの内容でした。

 例えば高級アンプのような柔らかい音の機材と合わせるなら、メリハリのある10Mが良く
比較的安い廉価版アンプなどは、PROが合っているような気がしました。
10Mは数も多く、使われ方も千差万別で程度に差のあるスピーカーです。
 特に密閉ですし、個体差の問題も考えられそうです。

10M、PRO、STUDIO、3種のどれかを使いたいならPRO。横置きがいいならSTUDIO。
YAMAHAが好きで、多目的に普通に使いたいならMTがおススメ、そんな内容になります。

 さてさてここで終わりじゃありません。
ここからが本命であり、このサイト(私)最大の見せ場でもあります。

今回の対決、最初に予想していた順位が
1位
MT   2位 PRO 3位 10M であり、実際に聴き比べてみると
1位 PRO 2位 10M  3位 MT  という結果でした。

本当は3位の
10Mを”バスレフ化して大化けさせてやるぞ! ”なんて事も考えてた企画なんですけどね(^^;
とりあえずここらで、内部検証へとうつりましょう。
●まずは全てばらします。
PROのナットにはしっかりとロック剤が塗られており
ボルトが空回りするので、外すのが大変でした。
それ以外は軽快に進みました。

ひとつ難点があり、このグラスウールは超チクチクする。
これのあとおもわずシャワー浴びたが、
それでもチクチクがおさまらない。
箱から全部取り出す時は、部屋中粉塵だらけになるので
外でやるのがベストです。
●これはPROの内部。
吸音材は9割くらい、みっちり詰められてます。
内容は10Mと同じでした。
●これは10Mのネットワーク。
●こちらPRO。
写真でわかるとおり、まったく同じでした。
たぶんSTUDIOも同じで、ユニット(TW)の違いだけでは?
と考えられます。










●でリファイン、極みチューン しました。

部品はウーファーのコンデンサーとケーブルの交換。
ウーファーのコンデンサーは小さめMPですが、
2個並列使いというのがポイント、これが効くんです。

ツィーター側には抵抗と、コンデンサー1、2uFあたりの追加を
悩んだが、とりあえずエージングし様子をみることにします。
(10Mは最終でコンデンサーと抵抗追加)

10Mは他の方もけっこうチューニングしてるようですが、
私のものとは決定的に違うところがある。
それは”
気配り ”です。

←私は基盤やYラグなどを介さず、
すべて
ケーブル直結で接続しています。
それと振動対策は必ずやりますが、それは
音質を良くするのではなく
音質が悪くならない、劣化しにくくするのが目的なんです。
そういう細かいところの見直しが
一番大事だと考えてます。
●さて、これは10Mのツィーター。
●PROと同じ仕様にするため、フェルトを丸くカットし装着します。

左はPROで右が10M。
PROのフェルト(うっすら見えるグレー)は5mm厚。
手持ちのフェルトは2mm厚だったので、2枚貼り合わせ
4mmにして対応しました。
私が使ったフェルトは完全に”黒 ”ですが、
ここはPROのようにグレーの方が良さそうですね。

この両ツィーター、外見はまったく同じですが、
ボイスコイルもほぼ同じ、差のない感じでした。
耐入力の違いはコイルの違いだとも思うのだが、
どこが違うのかが解りません。
音が微妙に違うと感じたのは気のせい
なんてことも言えそうな内容でした。
●これは10Mのウーファー、TW同様見ためはPROとまったく同じ。
10Mはこの白紙コーンが最大の特徴ですが、
白なんで汚れ、染み、焼けが目立ちますよね。

そこで今回は塗装ではなく”
漂泊 ”にチャレンジしてみました。

左は未処理で右が1回塗り。
最初はダメージの少なそうな酸素系(原液)を使ったのだが、
ほとんど効果が無かった(即効性が無い)ので
塩素系(キッチンハイターなど)を使いました。
 塩素系は一応水で薄めたのだが、最初から
やばっ!って思えるくらいどんどん白くなってきます
ダメージを懸念しながらの作業だが、すごい力です塩素系は。

ただし色々と問題点もある。
まずは塗った瞬間からそこが白くなり、除所に弱まり広がっていく。
いわゆる”ムラ ”になりやすい。
 そんなムラをさらに消すため、少し濃いめでやるのだが
ダメージが無いか心配になってくる。
写真じゃ見えにくいと思うが、右のコーンには黒い点線があり
実は抜け落ちた筆なんです。

普通の剛毛で塗ったのだが、いつのまにか毛が無くなった!
そんなノリなんですよ(笑 だから心配にもなりますよね。
その抜け落ちてひっついた毛を取り除くのも、
完全に乾いてからじゃないと、などなど色々と神経使いました。

ただし試行錯誤した結果、
←ご覧のよう、なかなかいい具合で”
真っ白 ”です。
これ塗装より難しいですが、苦労したかいはありました。
なによりオリジナルを維持するというのが、一番かもしれません。

●コーンが完全に乾いたら、エッジにダンプ剤をぬります。
みなさんの10M、カサカサじゃないですか?
これでしっとり潤う エッジのできあがりです。
●説明にも力が入ってきますが、
これも力が入る”VCC ”の施工。

他のスピーカーでは なかなか好評のVCCですが
10Mシリーズでも効果が期待できそうです。
今回は全機種、底面に施工しました。
●赤○がVCC、セメントが完全に乾いたものです。
●さらに今回10Mは”バスレフ ”にしてみた。
これは背面に穴をあけた状態で、この後ポートを抜き差し
しながら、セッティングを煮詰めていきます。

MTのポート周波数が約50Hzでしたので
50、60、70Hzあたりを調整しながら視聴していく。
結局65Hzくらいがいい感じだったので、そうしました。


ここでも私なりのこだわりがありまして、例えば10L箱で、
直径3cm・長さ 3cmのポートと
直径5cm・長さ10cmのポートは、同じ60Hzなんですね。

で、馬力が無さそうなウーファーの場合には、
ポートを短めで対応。
 逆に大きいマグネットの場合には
長めのポートにするのが、私なりのフィーリングなんです。
●さてここからは 10MT の内部検証にうつります。
まずはユニットを外す。

MTのウーファーはセンターキャップが小さいので
その違いはすぐにわかりますよね。

紙質は似たような感じなのだが、
細かいエンボス加工がされてます。
これはより強度を上げる為なのか?
コストのせいかはわかりません。
●ユニットを外してすぐ、おっ という感じ
マグネットが大きくて迫力ありました。

これはキャンセリングマグネットで2枚重ね構造。
マグネット自体の大きさは、10MやPROと同じです。

それよりも・・・
●こちらツィーター。
こちらはカバーが無いので、
マグネットの後付けがよくわかりますよね。

音質はいたって普通のソフトドームですが、
いまいち伸びが良くないような気もしますが
エージングに期待します。
●箱の内部。
予想通りのガランドウ、その傾向は音色にも表れており
少しボンつくような感じです。

少しだけ見える白いのが(スポンジ)吸音材で、
それと底面に、ほんの少しのフェルトでした。
これはすぐにでも吸音材を追加したいですね。
良く言うと、
箱の響きを最大に利用する設計。
てな感じでしょうか。
●ネットワークとターミナルを外しました。
+ネジで簡単に外れます。
部品が取り付けてある板は薄いベニヤなんで、
少し安っぽく見えました。

それよりも・・・見てくださいこの
ケーブル
過去に扱ってきた日本製スピーカーのなかでは、
たぶん一番良いケーブル(青)ではないかと思われます。

これがMT 最大の目玉。
ユニットを外した瞬間、すぐにケーブルに目がいくほどでした。

その青いケーブルはウーファーのみで残念ですが、
ツィーター(透明)にもそこそこ良いものが搭載されてます。
それに加えこのターミナル
まるで私が「 チューニングしました 」と言えるような構成ですね。
エンジニアがグレードUPを考えた結果なんでしょう。
●こちらは
左が10Mのターミナル
右がPROのターミナル(STUDIOも同じ)。

今回は両方交換しました。
●青いケーブルの正体はこれ
ALR/JORDAN
エー・エル・アール ジョーダン。
外国製(ドイツ)高級機種としての印象が強いメーカーの一つ。

実は今回検索して気づいたのだが
ずっとエアージョーダンだと勘違いしており、
ナイキかよっ、なんて思ってました(^^;

ナイキのエアージョーダン、流行りましたよね。
昔何足か持っていて、ボロボロになるまで履いたものです。

さてこちらのケーブル、質実剛健のドイツ製品といいますか
作りも質感も とてもいいケーブルです。
YAMAHAさんもおもしろいチョイスをしますよね。
もしツィーター側もぜんぶこのケーブルだったら
これの評判が出ていた?かもしれませんし、
間違いなくケーブルコストはNo,1でしょう。

ですがこのケーブルに関して、メーカーの説明すらみあたりません。
もしや誰かが交換したのか!?
なんて事もよぎりますが、手持ちの2セットどちらも同じでした。
もし誰かが交換するのなら、TW側もこれにしますよね、たぶん。

●今回のネットワークチューン 見た目は豪華ですが
ウーファーのコンデンサーしか交換しておりません。
10M、PROと同じ部品を使いました。

実は10M、PROに採用したケーブルは、
ビクターのハイクオリティ・リファレンスケーブルというもので
その
青色が、MTと同じで驚いたほどなんです。
(始めに部品構成を決めてしまうので)
感が冴える!ってやつですかね。
このあとテストし、接点などを煮詰めていきます。
●MTも10M、PRO同様
VCCでバッチリ決めます。
●傾斜は10度くらいか わりとゆるめ。
約1kgアップは伊達じゃないほど ズッシリきます。
●セメント面は出さないよう、フェルトで密着させ出来上がり。
元々は吸音材 5% 程度でしたが
とりあえず 40% ほど詰めて調整していきます。

最後にユニットを取り付け
●3兄弟の完成!!!
10Mのウーファーが一番黄ばんでいたのだが、最後は一番まっ白になりましたね。
PROとMTはわりと綺麗だったので、手をつけませんでした。

  今回はテンモ二大改造の巻きでしたが「
そもそもスタジオモニターって何? 」という素朴な質問から。

A:音楽を作る時、ギターの響きはこれくらい、ドラムの音はこんな感じ、ボーカルの出具合はこんなんで。
などと個別の音を重ね合わせる作業をミキシングといい、最終的に”
音質を確認するスピーカー”を”スタジオモニター ”と言います。

 スタジオモニターはとても大事な機材であり、違う種類が複数置いてあるのが一般的です。
例えばすごく重低音が出るスピーカーでミキシングしてしまうと、
他のスピーカーでは低音がぜんぜん入ってないような音質になってしまいます。
音質はアーティストやエンジニアの好みも出るところですが、”
バランス ”を保つのは全てにおいて大事な要素です。

 家でいいなと感じたCDを車に持ち込んだら なんか変? という経験はありませんか?
車はエンジン・マフラー音にはじまり、ロードノイズやら工事などの雑音が 絶え間なく入ってきます。
そんな中で音楽を聴くわけですから、雑音に負けないくらい強い中・高域で、とにかく”
メリハリ重視 ”の仕上げ方なんです。

 10Mを使い仕上げた音源は、家でも車でも”
どちらもいい感じ!
そんな違和感の少ない音質になるのが”
テンモ二マジック ”であり、多くのスタジオが採用する一つの理由でしょう。
ようはそれだけ”
バランスがいい ”のかもしれません。

 私は数々のスピーカーを基準にしてますが、もし10Mを基準としたならば、
他のスピーカーはみな 「 なんて低音が出るのでしょう 」 というようなコメントが続き、
10M以外 重低音スピーカーになってしまいそうです(笑
 そんな事からも、10Mは音を聴くスピーカーではなく、音を確認するスピーカーなんです。
おわかりいただけたでしょうか。

・・・・・・・・・・・・・

で 元に戻り、チューニング後の音質はどうなのか?ですが
今回はまずPROから始め、それを基準にし チューニングの度合いを確認していきました。
 
PROは3種の中でも非常にバランスが良、単純に部品グレードを上げる、質の底上げをするだけで
十分なポテンシャルを発揮してくれました。

そのバランスにできるだけ近づけ、かつ中・低域に厚みを持たせたのが”
バスレフ化した10M ”です。
「 このコーン超軽いなあ 」
なんて思えるほどスピード感のある10Mですが、そんな音質からは想像できないほど、
しっとりと落ちついた音色が出るようになりました。
 最大のポイントでもあるポート周波数だが、
一番低音が感じられる帯域ではなく”
一番気持ち良く感じられる音 ”を目標に仕上げました。
ソースや好みにもよりけりですが、十分に満足できる音質となりました。

 最後は
MT、これはまず箱鳴りを改善するのが重要だと考えました。
メーカーは低音を狙ったようなセッティングでしたが、これはバスレフ化した10M同様、
重低音を期待するスピーカーではありません。
だからほど良い鳴り具合で、最高に感じられるバランス感を目標に仕上げていきました。
 あまり褒めちぎると 自慢とか嫌らしいなんて思われそうだが、
PRO同様純粋に
VCC効果覿面で、中・高域のブレもなくなり 見違えるほどの響き具合に変わりました。

 今回の10Mシリーズはどれも素直な特性だけに、セッティングもとんとん拍子で楽に進みました。
それだけユニットの占有率が高いので、まずは動作を完璧にすることが重要視されるスピーカーでもありました。

最後に。
今回は昔のよう、写真も文面もかなり多くなってしまいました。最後までお付き合い頂きありがとうございます。
 私は活字本を読むどころか、漫画すら読むのも超遅いんです。
今まで速読できるような練習も試みてますが、いつも三日坊主で終わってしまいます。
だから文面が多いと、間違いチェックをするのも大変なんです(^^;

でもそれを超越するだけの魅力、人を引き付けるような魔力が、この10Mにはあるのでしょう。
音を聴いたことがない方は、一度所有してみてはいかがでしょうか。

 次回、ストックしてあるスピーカーが多すぎて、箱を開封するのも嫌気がさすほどですが(笑
何が出るのか お楽しみに♪

      ・・・        ・・・・・