●ヴァリアスクラフトを見てくださる方の中で、これを所有してる人はいるのか?
というくらい”レア ”に感じた KENWOOD LS-X900 が、今回ご紹介するスピーカーです。
80年代にありがちな渋いOLD3wayスタイル。
そこに加えられたスーパーツィーターの自己主張は強く、完全に主役的存在。
わりと大きいサイズは他メーカーの600シリーズクラス。
悪く言うと中途半端なサイズだが、YAMAHAやダイヤトーンを買わずにこれを買うつわものはいるのか?
そんな印象だがパッと見とてもかっこよく、つい所有したくなる!そんなスピーカーのひとつであることは間違いない。 |
KENWOOD LS-X900 1987年 \53,800円(1台) |
●メーカー解説:4ウェイでワイドレンジを実現したスピーカーシステム。 |
方式 |
4ウェイ・4スピーカー・バスレフ方式・防磁設計 |
使用ユニット |
・高域用:ホーン型 ・中高域用:5cmセミドーム型 ・中低域用:10cmコーン型
・低域用:27cmコーン型 |
再生周波数帯域 |
28Hz〜47000Hz |
インピーダンス |
6Ω |
出力音圧 |
91dB/W/m |
クロスオーバー周波数 |
600Hz 4KHz 8KHz |
外形寸法 |
315幅×高さ530×奥行332mm 約45L ポート周波数約35Hz |
重量 |
16kg |
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●機能には問題なさそうなので、さっそくインプレッション
まずは一言
「 ん〜〜。あまい音、あいまいな音だな〜 」
見た目が渋くてかっこいいだけに、音はちょっと残念な結果でした。
なんとも表現し難いのだが、とくに中・低域の寝ぼけたあいまいな音は、音酔いしそうなほどブレまくっている。
唯一の長所?
昔のラジカセで再生と赤いボタン(録音)を指二本、同時押しで録音開始するやつあるじゃないですか、
それをTVの前に置き、歌番組の歌を直接録音する。
そんな経験はたぶんどなたもありそうだが、そんなノリのソースといいますか、
録音の悪いダメなソースであっても、このスピーカーを使えば美音になる。
そんなマジックがこのLS-X900にはあるんです。もちろん良い事ではありませんが(笑
4wayユニットの詳細だが、まずはスーパーツィーター。
見た目の”存在感 ”同様、音もでしゃばりすぎの垂れ流し状態。
刺激のすくない柔らかい音質はいいとしても、なんとも主張しすぎの能率である。
ツィーターとスコーカ―はアッテネーターで調整できるので、中域を凸〜凹まで好みで変えることができる・・・のだが、
ツィーターはスーパーツィーターに”遠慮しすぎ・能率低すぎ ”輪郭・定位がぜんぜん安定しない。
スコーカ―は逆に能率高すぎ、つまみを最小からちょっと上げただけなのに、かなり凸ったエコー音が飛び出してきた。
ツィーター全開スコーカ―最小でようやくバランスが取れるといった感じだが、やはりSTWうるさすぎ。
もうひとつ重要な問題が低域。
まずはサイズのわりにぜんぜん量感がない。馬力を感じられない。押しが弱い。だから甘く解像度も低い。
低域の量感がもう少しあると、STWのでしゃばりも消えバランスが取れそうな気もする。
ついでに見ためのダメな点、ケンウッドさんの手抜きというかコストダウンといったほうが聞こえがいいか。
塗膜が激薄、近くでみるとよろしくありません。
加えて以外に”大きい ”こと。
初めて見た時は大型か?と思ったほどで、たぶん中型では一番大きいJBL 4301より一回り大きく、
4311に肉迫するほどのサイズ。大型に分類されるサイズである。
4wayというユニットの数が多のは手間がかかるが、昔のこのタイプのフレームは中途半端にはできない、
”やるかやらないか ”のどちらかタイプであり、やるならばそうとうの労力が必要です。
ダメ出しのオンパレードでこちらもファンには申し訳ないと思ってる。
だが感じたことをそのまま、真実をお伝えするのもこのサイトの使命であり、そこに共感もたれるファンの方も多々おります。
それとやばいスピーカーを激変させるのも、このサイトの魅力でもあり、
こんなスピーカーが存在するからこそ、ヴァリアスクラフトが成り立っているのかもしれません。
そんなんでチューニングの醍醐味”激変 ”を目指し、メニューを考えます。
このLS-X900、アッテネーター搭載であることが最大の”救い ”であり、セッティングにも余裕が生まれるでしょう。
では内部検証へと移ります。 |
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●ユニットを外します。
ネジの数が片側20本!
すべてにコストかけてるのがよくわかります。
吸音材は全体の1/3程度、
多くも少なくもないといった感じ。 |
●こちらはスコーカ―(MID)
ウーハーの背圧が影響しないよう独立されているが
3wayなんかでは一般的。
これは紙筒にパーチクルボードを貼った構造でした。 |
●ネットワーク。
これも見てわかるよう、きちんと独立されており
部品点数もおおく、
10万円クラスとは思えないコストのかけかたですね。
基盤はプラスチックの爪で留められているのだが
この爪が超外しにくいクセモノです。
狭い箱の中での作業なので、よけいそう感じました。 |
●ようやく外せた基盤を背面から出しユニットを装着、
出音の確認をしながらセッティングしていきます。 |
●3wayなどはまずウーハーとツィーターの能率合わせから入る。
これの場合ウーハーとスーパーツィーター。
その能率がほぼ決まれば、そのスーパーツィーターに合わせ、
ツィーター、スコーカ―と個別に合わせていく。
能率を合わせながら音色(クロスオーバー)も変更し
どんどん煮詰めていく。
この音色変更のセッティングが私の得意とするところで、
絶対音感を持つ耳に頼りきってます。
測定機はある程度の目安にはなるのだが、
細かいところを煮詰める場合はやくにたちません。
だから耳だけでおこなってます。
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●ネットワークの完成。
交換部品がけっこう多くなってしまいました。
私がチューニングしたスピーカーはオークションで出品するのだが
どうぞ聴き比べてください。
なんて強気なことを書いており、そのとおり同じものを持っていて
聴き比べたよ!なんて人、けっこうおります(^^;
そのつどドキドキしてましたが
ほとんどの方には”こんなに違うのか! ”
なんて喜んでもらいました。
そんなのが私の実績になるんですけどね。 |
●さてオーナー様の希望通り、ターミナルを変更します。
これは矢印のような一体型で |
●ご覧のよう壊さないと装着できません。
私の場合こういうのは、木材でベースを作る事が多い。
でも今回は元のカバーに直接取り付けます。
凸部分を壊し補強して取り付け。
この壊すという工程も、わりと難しいものでした。
ちなみにロビン企画?というショップを御存じですか。
そのショップでは頻繁にターミナル交換をおこなっているのですが
こんなタイプはどうやって交換してるのか?
気になるところでもありました。
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●取り付け完了。
凸部分を壊すさい、カバーが少し割れました(接着済み)。
いつもならホットカッター(はんだごてのカッタータイプ)で
やるのだが、簡単そうで難しいものです。 |
●ユニットのオーバーホールが完了。
ウーハーはプラコーンだが、MIDとTWは紙でした。
積もるほどほこりまみれだったのだが、
紙の場合クリーニングに神経使います。 |
●こちらウーハー。
エッジはウレタンなので、しっかり補強しました。
これでとうぶん大丈夫でしょう。
ごっつくて重いフレームは希少価値のある品です。
一見キャンセリングマグネットかと思っていたが
メーカーの説明文によると
「 長いボイスコイルボビンに2段のボイスコイルを装着し、
2つのマグネットでドライブすることで
パワフルな低音再生を図っています。 」
とのことだが、低域の量感がないため
お言葉だがパワフルには感じませんでした。 |
●ターミナルはこんな具合でかっこいい!
ユニットを取り付け |
●完成!!!
ブラックボディにキラッと輝くユニットが
いちだんと渋みをましてます。
最初に聴いた時は なんだこれ なんて思える変な音でしたが、
久保田マジックで”激変 ”に生まれ変わりました。
所有者も少ないと思うが、それをチューニングするなんて
たぶん「 日本一のLS-X900 」ではないかと思えます。
詳細は↓ |
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●軸がブレブレの上、能率もバラバラ、音酔いするほどのあいまいな音のLS-X900だが、↑こんな手順でチューニングしました。
まずは固定能率のSTWとWFの能率を合わせる。ここは完全に合わせるのではなく、気持ちSTWを大きくするのがみそ。
アッテネーターがあるにも関らず、↑こんなですから(最小1〜最大10)。そこの能率を合わせバランスを取れやすくしました。 |
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●能率合わせは基本中の基本ですが、↑これがチューニングの真髄です。
つながりの悪い音だな、なんて思っていたのだが、部品にもその答えが表れていました。
STWはカタログ通りのほぼ8KHzだったのだが、TWは6KHzにも満たないほどで、その値ではツィーターとしてのおいしさが無い上
意味不明な部品が後付け?されているほど、あいまいな部品構成でもありました。
それをカタログ値の4KHzに戻してやった。たったそれだけでも別次元のバランスになりました。
加えて急激に飛び出すスコーカ―。これは上と下をワイド化する事により、マイルドで自然な音色へと変えました。
そんなスコーカ―はまさにV6のドッカンターボであり、それをシルキーシックス(直6)に変えてやっただけの話です。
ソースだが、アッテネーターバランスが適正になったので、凸〜凹まできちんと対応しオールジャンルでこなせます。
特に相性がいいのは、やはりボーカルものでしょう。
元(ノーマル)のLS-X900では「 ボーカルしか聴けない音 」でしたが、
このチューニングLS-X900では「 ボーカルが聴きたくなる音 」です。
今回はチューニングメニューから外した”ポートの見直し ”だが、ポート周波数が35Hzとけっこう低めなので
これを50Hzくらいにすればもっと量感もUPし、オーケストラの重厚な超低音も十分な聴きごたえになるはずです。
最後に。
今回はフルチューンという過程になり、激変という結果がでました。
そんなチューニングはフィーリングでセンスの問題もあるので、業者様はできないというかやらないでしょう。
でもここまで音が変わるのですから、所有者には全員やって欲しい!そんな思いも片隅にはあります。
チューニングでもっとも難しいのが”バランス ”であり、そこは職人技が出るところで経験と勘にも頼ります。
ビシッと決まったときは何物にも代えられないほど”心地よさ ”があり、機械では出せない味でしょう。
多くのエンジニアもヒヤリングを駆使してきたよう難しいチューニングでもありましたが、
今回はチューニングの好例になったはず、そんな感じのする結果でした。
次回、ようやくYAMAHA3兄弟に着手します。あれ?テンモ二って、こんなに良かった?
そんなところからのスタートになりました。お楽しみに♪
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